2024/08/05

藤山正彦のぷち教育学【総合学習とアクティブ・ラーニング Integrated Study and Active Leaning】

以前、小欄に、「総合学習(合科学習)」について紹介しました。

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2000年(平成12年)春、奈良女子大学附属小学校は、学校の先生、教育学研究者らで校内が埋め尽くされる異様な光景になっていました。廊下まであふれた生徒数の数倍以上の見学者が見守る中で研究授業が行われていました。実はその年から「総合的な学習の時間」(総合学習)が、学習指導要領が適用される学校のすべて(小学校、中学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校)で2000年(平成12年)から始められることになったため、そのヒントを得るために授業研究会に先生たちが押しかけたというわけです。

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このように「総合学習」が脚光を浴びていた24年前ですが、今日はどうなったのでしょうか。

 このグラフは、20147月に河合塾が高等学校の先生に「総合的な学習の時間で実施している活動」について尋ねたアンケート結果です。129件の学校から回答があったそうです。

(合計すると100%を超えますが、これは実践が複数の内容や目的を含む場合は複数回答になるためです。)これを見ますと、「探究的な活動」「言語活動」「各教科・科目等との関連を意識した学習」の3つは実質的に教科学習の補習(特に大学受験に向けた補習)として使われていると考えられます。「ゆとり教育」と呼ばれる学習内容の削減から一転し、大学入試センター試験の科目数増からわかるように、今の高校では大学進学に向けて体験や調べ学習をしている暇がない、というのが実情のようです。つまり、「総合学習」の「自ら学び自ら考える教育」という理念が薄れてきているように思えます。

総合学習と・・・.jpg

Kawaijuku Guideline 201411月号より」

 さて、「ゆとり教育」から決別した日本は、教科書のページ数増加は当然として、土曜授業の復活、小学校英語の教科化など数々の改革が進行しています。「学力は何か」についても教育再生会議の答申を受けて文部科学省は図のように規定しましたが、これから必要とされる力に「主体性・多様性・協働性」を挙げており、そのためには「アクティブ・ラーニング」が有効とされているわけです。

 アクティブ・ラーニング_min.jpg

 このように、「総合学習」に代わる方法として「アクティブ・ラーニング」という言葉が聞かれるようになってきました。

 このグラフは1年間にそのキーワードで発表された論文の件数を表したものです。(国立情報学研究所が捕捉している学会論文等の件数)ご覧のように2010年からは「総合学習」が注目されなくなり、2013年からは「アクティブ・ラーニング」が急上昇、しかも総合学習に比べると伸びが大きくなっています。今回の教育改革がいかに大きく教育界に影響を及ぼしているかがここからもわかります。因みに2023年は「人工知能」というキーワードを含む論文は2,000件以上、つまり教育学での「アクティブ・ラーニング」というワードの論文本数の10倍以上となっており、そちらの分野の研究も急速に進んでいることがわかります。

キーワード毎の__アートボード 1.jpg

 さて、このように目的は明確な「アクティブ・ラーニング」ですが、実はその「定義」はまだ決定版がありません。しかし、それでは話が進みませんので、今のところ有力な説を挙げておきます。

 ここでは早稲田大学 大学院教職研究科教授であり、文部科学省「全国的な学力調査に関する専門家会議」の委員をつとめている田中博之教授の定義を援用します。田中教授によりますと、アクティブ・ラーニングとは「課題の発見・解決に向けた主体的・協働的・創造的な学びであり、習得・活用・探究という学習プロセスに沿って自ら考えを広げ深める対話を通して、多様な汎用的能力を育てる学習方法である。」(田中博之2016)とされていますが、これも一般的な言葉に置き換えて説明しますと、「答えのない問題に対して、グループのメンバーが積極的に解決方法を考えながら分担してネタ集めをして、その知識をもっと深く議論をしているうちに、情報整理能力や論理性、プレゼンテーション能力が身につくような学習ですよ。」といった感じでしょうか。「主体性」「協働性」「創造性」についても定義されていますので、挙げておきます。

 学校で「アクティブ・ラーニング」といわれたら、このような観点で評価されるということにもなりますので、忘れないようにこの表をプリントアウトして、お子様の目につくように冷蔵庫などに貼っておきましょう。

◆主体性(主体的な学び)
 ⇒自分の言葉で書き、発表する。与えられた課題より多くの成果が期待されている。

◆ 協働性(協働的な学び)
 ⇒グループ内で友達と協力し、またはグループを超えて問題を解決する。役割分担を決めて学習計画を作成する。

◆ 創造性(創造的な学び)
 ⇒新しいアイディアや考えを作り出す。既存の情報や資料を批判的に検討する。

(田中博之 2016

 ここまでですと、「総合学習」と「アクティブ・ラーニング」は似ているな、いったいどのような違いがあるの?という話になりますが、最初の例のように、「総合学習」は小学校教育からの発想で、教科学習を深めるといった側面が強いのに対し、「アクティブ・ラーニング」は大学教育からの発想で、講義型の授業のような受け身の学習だけでは実社会で通用する能力が育たない、という反省から生まれたものです。大学のゼミ、講読、実習といった講義形式以外の授業が、そもそも「アクティブ・ラーニング」なわけです。

 それも含めて、この二つの違いを簡単に表にまとめてみました。

 

総合学習

アクティブ・ラーニング

歴史

小学校の合科授業

大学の授業改革

何に合わせる?

子どもの生活

社会で必要とされる能力

学力とは?

生きる力

文科省が規定する「学力の3要素」

目指す方向

自ら学び自ら考える

主体性・多様性・協働性

 経済大国だ、世界2位だ、といわれていた日本は、現在多額の債務と少子高齢化に苦しんでいます。現在の経済水準を維持するためには優秀な人材の育成が急務だといわれています。その必然性から一躍注目された「アクティブ・ラーニング」はグローバル教育と併せて今後の教育関連の学会でも取り上げられる機会が増えることでしょう。

 

参考文献
池田小菊 「各科を圓めてする学習法」『伸びていく』21138-42 1921
河合章ほか 編 日本現代教育史 新日本出版 1984
加藤幸次・佐久間茂和 個性を生かす学習環境づくり ぎょうせい 1992
日本教育工学会編 「教育工学事典」 実教出版(2000
田中博之 アクティブ・ラーニング実践の手引き各教科等で取り組む「主体的・協働的な学び」 (教職研修総合特集)教育開発研究所(2016

 

<文/開成教育グループ 入試情報室 藤山正彦>