2025/01/06

藤山正彦のぷち教育学【最新の研究より From the latest research】

 教育学は日々進化しています。そんな中から、2024年秋~2025年に発表された研究論文を2つ紹介します。

【小学校6年生を対象とした予習を促す学習講座の実践 八幡祐里香・深谷達史(広島大学大学院人間社会科学研究科)日本教育工学会論文誌 advpub (0), 2025-01-20】一般社団法人日本教育工学会

 授業の予習は授業の理解度に大きな影響があることは感覚的にわかりますし、実際にそのような先行研究もあるのですが、特に小学生レベルでは、実際にはあまり予習してくる生徒はいません。そこで、5日間連続の講座を小学6年生に実施して、予習の必要性についての考えやその効果がどの程度変化したのかを調べた研究です。

 小学6年生79名を評定平均が均等になるように2グループに分け、一方を実験群(予習の方法と重要性を伝えたグループ)、もう一方を統制群(そのような指示を与えずに授業を行うグループ)とします。まず授業を行う2週間前に、予習の頻度や有効性などに関するアンケートを行います(事前質問紙)。そして、算数の未修範囲である「比例と反比例」の授業を行います。

 実験群には1日目に予習の重要性と必要性、その方法を伝えます。そして5分間の予習をさせます。そしてその日の授業のポイントを確認してから授業を行います。2日目もまず3分間教科書を読んでから授業を開始しました。3日目は予習のポイントを振り返ってから「つまずき発見チェックリスト」も利用しながら5分間の予習を行います。4日目は宿題として課した予習がどのように難しかったかをペアで話し合い、その後授業を行い、5日目(最終日)にはその振り返りとテストを行いました。もう一方のグループには4日間授業だけを行い、5日目には同じようにテストを実施しました。そして、この講座が終わって2か月後に再びアンケートを行いました(遅延質問紙)。その結果が表1となります。

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 この論文では、そのテストの平均点など具体的なデータが書かれていませんが、統計的にはあまり差が無かったということになっています。しかし、予習の方法を学んだグループはこの授業の後も予習の頻度が上がり、コスト感(予習はめんどうだと思う気持ち)が下がりました。このことから、「予習の重要性」を伝えるよりも「予習の方法」を伝える方が効果的ではないかと考えられる、という研究でした。

【講義の板書が教員の発話と大学生のノートテイキングに及ぼす影響―時系列分析を用いて― 吉岡昌子(愛知大学)他 教育心理学研究 72 (3), 157-168, 2024-09-30】一般社団法人 日本教育心理学会

 大学生は講義内容をノートに記録する(ノートテイキングをする)割合は90%以上だという先行研究があるほど、授業中にノートをとるという行動が不可欠だと考えていますが、一方で重要ポイントを記録できているのは30%ほど、書かれた情報の正確さにもばらつきがあることも知られています。このように学生のノート取りについて大学の先生ももっと知りたくなったのでしょうか、今回の論文は板書の有無と学生のノートの関係、教員の発話との関係を調べたものです。

 まず測定するために筆圧の変化に反応する特殊なボールペンを用意し、学生が文字を何画書いたのかをリアルタイムにパソコンに記録します。一方、教員の発話は録音し、音声認識ソフトを利用して、ひらがなにして何文字(ひらがな1字を「1モーラ」といいます)発話したのかも時系列で記録します。そして、配布資料無しの授業で、板書の有無で比較するというものです。

 学生を4つのグループに分けて、授業の前半・後半両方で板書を行う対象群(要するに普通の授業)と授業の前半のみ板書があり、後半は板書せずに教員が口頭だけで説明する実験群(実験的に普通と異なる授業形態)に分かれます。

 教員の話すスピードは、実験群では板書するのを止めた後半で早くなっているのがわかります。逆に言えば、板書することによって、話すスピードが抑制されるため、学生もノートがとりやすくなることにもつながっています。(Figre 2

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 次に学生がノートを取るスピードは、実験群の後半で板書が無くなった授業の場合、スピードが落ちています。(Figre3

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 講義内容のテストをしてみると、事前のテスト(プリ)で「対象群」よりも点数が高かった「実験群」は、後半に板書が無くなった講義を受講したところ、点数が悪くなってしまいました。(Figre7

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 また、アンケートの結果、理解度やノートのとりやすさについて、板書が無くなった実験群の後半で大きく下がっています。(Table3

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 というわけで、最近は大学だけでなく、高校や中学校でもプレゼンテーションソフトやアプリの画面を駆使した授業も増えてきていますが、授業中には適切な板書があった方が、学生は理解しやすいですよ、というお話でした。

 

<文/開成教育グループ 入試情報室 藤山正彦>