2025/03/03

藤山正彦のぷち教育学【学習スタイル Learning style】

 教育学における「学習スタイル」とは、学習者が情報を受け取り、処理し、理解する際の個人特有の方法を指します。簡単に言いかえると「学び方の個性」のことです。学習スタイルにはさまざまな理論と分類がありますので、いくつか挙げてみます。

1.フレミングのVARKモデル

 2年前に亡くなったニール・ドナルド・フレミングはニュージーランドの教育学者ですが、ニュージーランド南島の100以上の高校で9年間上級検査官を務めました。そこでの経験をもとに生徒の学び方の違いを「VARKモデル」として提唱しました。

VARKモデルでは、学習スタイルを以下の4つに分類します。

○視覚型(Visual)
 図表やグラフ、イラスト、色使いなど視覚的な情報を好む

○聴覚型(Aural/Auditory)
 講義や会話、音声教材など聴覚を通じて学ぶことを好む

○読写型(Read/Write)
 テキスト資料やノート取りを通じて学習することを好む

○体験型(Kinesthetic)
 実験、実習、具体的な体験を通じて学ぶことを好む

 本来は子どもの志向(好み)はこのように違いがあるので、授業では多様な場面を作ってくださいね、という趣旨の研究だったのですが、学習者を特定のスタイルに分類することで、学習者自身に「自分はこのスタイルだけで学習するべきだ」という誤った認識を与える危険性や、すべての学習内容ですべてのスタイルに適しているわけではないという批判がなされました。確かに、実験や体験を伴う理科の実験は体験型授業が適しており、歴史的事実の知識事項には読写型の授業が効果的ですよね。

2.フェルダーとシルヴァーマンの学習スタイルモデル

 現代アメリカの教育学者リチャード・フェルダーとリンダ・シルバーマンは工学系の大学教育の経験の中からこのモデルを提唱しました。以下の次元で学習スタイルを分類します。

○感覚型(Sensing vs 直観型(Intuitive
 感覚型は具体的な事実や実践を好み、直観型は理論や抽象的概念を好む

○視覚型(Visual vs 言語型(Verbal
 視覚型は画像や図表、言語型は言葉や議論を好む

○順序型(Sequential vs 全体型(Global
 順序型は段階的に情報を学び、全体型は全体像を把握してから学ぶ

○活動型(Active vs 反省型(Reflective
 活動型は実際に手を動かすことを好み、反省型は深く考えてから行動する

 このように4つの対立概念に基づいて学習者の好みを表そうという提案なのですが、フレミングのVARKモデルに対するものと同じような批判もなされました。加えて4つの対立概念によって24乗、つまり学習者を16通りの学習スタイルに分類することになりますが、教える側が16通りのスタイルの授業を準備できるのか、という現実的な批判もなされました。

3.ガードナーの多重知能理論

 アメリカの心理学者、ハワード・ガードナーは、人には複数の「知能」があり、それぞれが異なる学習スタイルに影響を与えるとしています。以下の知能が挙げられます。

・言語的知能
・論理・数学的知能
・空間的知能
・身体・運動的知能
・音楽的知能
・対人的知能
・内省的知能
・自然主義的知能

 この学説に対しては、そもそも「知能」を複数の要素に分けるという考え方が、「知能」は統一的な概念とする既存の学説と相いれないという点や、たとえば「音楽的知能」や「身体・運動的知能」はそもそも知能ではなく、才能やスキルではないか、といった批判にもさらされました。

4.コルブの経験学習モデル

 アメリカの教育理論家であるデビッド・コルブは、学習プロセスを以下の4段階に分類し、それに対応した学習スタイルを提案しました。

○具体的経験(Concrete Experience
 実際の体験を重視する

○内省的観察(Reflective Observation
 経験を観察し、振り返る

○抽象的概念化(Abstract Conceptualization
 理論を形成し、概念化する

○能動的実験(Active Experimentation
 理論を実際に試す

 まず、学習者はこの順番に学習を進めるというモデルを想定しました。さらにこれに基づき、学習スタイルは以下の4つに分類しました。

○発散型(Diverging

○同化型(Assimilating

○収束型(Converging

○適応型(Accommodating

 これは成人の職業訓練を想定した理論ですので、子どもに援用するのは無理がありますし、今の学校で広く行われているグループ学習などの協働型の学びは想定されていないので、わかりにくいともいえます。成人向けだとしても、学習者がこのように定型化されたサイクルで学習するわけではなく、並行して進行することが一般的だと思います。

5.直感的分類(その他の分類法)

○独学型 vs 協働型
 一人で学ぶことを好むか、他者と協力して学ぶことを好むか

○構造的学習者 vs 柔軟的学習者
 明確なガイドラインや枠組みを好むか、自由な環境を好むか

 など、先に紹介したもの以外にも様々な考え方があります。但し、ここまでお読みになってお気づきかもしれませんが、これらの研究の多くは海外のもので、日本の教育学では学習スタイルについて掘り下げているものは多くはありません。実は日本の教育学は、公立の小中学校の集団授業を想定したものが多いからです。筑波大学名誉教授である辰野千壽先生が著した「学習スタイルを生かす先生」には、教師と生徒の学習スタイルが一致すれば授業の効果は高まる、と書かれていますが、実際の学校での集団指導で、生徒が先生を選ぶことも、またその逆も現実的にはできないこともあり、この考えも広がったとはいえません。

 

 最後に確認しておきたいのですが、学習スタイルは、固定された個性ではなく、精神年齢や学習環境・状況・内容に応じて変化することもあります。そこで、学習者は自分の学習スタイルにこだわらず、複数の学習スタイルを常に試してみて効率の良い学習法を選ぶという柔軟性も必要だといえるでしょう。

 

参考文献

Felder, R. M., & Silverman, L. K. (1988). Learning and teaching styles in engineering education. Engineering Education, 78(7), 674-681.

Fleming, N. D., (1995). I'm different; not dumb. Modes of presentation (VARK) in the tertiary classroom. In Zelmer, A., (Ed.), Research and Development in Higher Education, Proceedings of the 1995 Annual Conference of the Higher Education and Research Development Society of Australasia (HERDSA), HERDSA.

Gardner, H.E.,1983. Frames of Mind: The Theory of Multiple Intelligences, Basic Books, 1983.

Kolb. D. A. ,(1984) Experiential Learning: Experience as the Source of Learning and Development. Prentice-Hall, Englewood Cliffs.

・池尻良平 et.al,(2021) 経験学習の測定時における因子構造の考察-若年労働者を対象にした調査を元に 日本教育工学会論文誌 45(2)247-255

Pashler, H., McDaniel, M., Rohrer, D., & Bjork, R.,(2008). Learning Styles: Concepts and Evidence. Psychological Science in the Public Interest, 9(3), 105-119.

・辰野千壽(1989,学習スタイルを生かす先生 教育図書

 

<文/開成教育グループ 入試情報室 藤山正彦>