2026/02/09
藤山正彦のぷち教育学【メタファー Metaphor・Figurative・Language】
メタファーというのは隠喩、直喩、提喩、換喩などの比喩表現(たとえ)の事です。教育現場では目で見ることができないのを、見ることができるものに置き換えて説明したり、関係を他のものにたとえたりすることがありますが、このたとえのことをメタファーと呼びます。化学では「分子模型」というものがあって、原子を球で、結合を棒で表し、天体では太陽をボールのような球体で表したりしますが、あくまでもこれらはメタファーです。実際には原子は電子の軌道ですし、太陽は気体の集まりが球体のように見えているだけです。しかし、これらのたとえで理解が進む場合があります。
⑴ 特徴メタファー
特徴を他のもので説明するためのメタファーです。電流には流れる向きがあるということで水の流れにたとえ、並列回路の電流の説明に使われますし、大気が水蒸気を含むことができる性質をスポンジにたとえたりするものです。「アスベストは静かな時限爆弾である。」という一文で、アスベスト(石綿)暴露から、肺疾患が発症するまでの期間の長さを表現することもできます。
⑵ 関係メタファー
いくつかのものの関係を説明するためのメタファーです。鎌倉時代の「守護」は県警本部長、「地頭」は税務署長のようなもの、と言えば役割がわかりますし、「守護と地頭は車の両輪のようなものだ」と言えばどちらも重要で、上下関係が無いという説明にもなります。因みに室町時代には守護が地頭より優位になりますし、守護が地頭を兼務する場合も多く見られたので、先のたとえは限定的だということは断っておきます。
⑶ 概念メタファー
岡本太郎氏による「芸術は爆発だ」というのがこれです。彼にとって芸術とは既存の枠からはみ出すべきもの、動的なもの、といったメッセージがダイレクトに伝わるメタファーです。人生をマラソンに例える人や、波乗りに例える人など、人によって異なるメタファーが用いられることもあります。「この街は病んでいる」など擬人化してイメージを伝えるものもあります。
⑷ メタファーとその限界
このように説明するためのメタファーが授業でも多く使われていますが、実は不正確な情報を植え付けてしまう危険性もあります。多くの理科の教科書には動脈は赤、静脈が青に印刷されていますが、実際の血管に色がついているわけではありません。体循環の動脈血は鮮やかな赤色で、その色が透けて見えるので動脈は静脈より赤く見える、という程度です。電流を水の流れに例えた場合でも、電線を途中で切れば電気が切り口から流れ出るという誤解が生まれますし、先にあげた「守護」の例えも、時代背景や社会構造が違う現代の役職に例えることには無理があり、守護がその後世襲制の大名になっていく事の説明が逆に難しくなってしまいます。音が伝わる様子も波型の線で表される事が多いのですが、実際には粗密波(伝わる方向と振動の向きが同じ)ですので、波線で表現すると屈折の理解が難しくなります。
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このように自分で新たな概念を学ぶときに、他のものにたとえて理解するのは大変有効なのですが、その概念とメタファーの違いを正確に理解し、そのたとえに引きずられて誤った理解とならないように気を付ける必要があるでしょう。
<参考文献>
三宮真理子 思考におけるメタ認知と注意 市川伸一(編)認知心理学4思考 東京大学出版会 pp.157-180 1996
日本教育工学会編 『教育工学事典』実教出版 2000
日本教育工学会編 教育経営研究の軌跡と展望 ぎょうせい 1986
芳賀準・子安増生(編) メタファーの心理学 誠信書房 1990
<文/開成教育グループ 入試情報室 藤山正彦>