2026/03/09

藤山正彦のぷち教育学【カリキュラム Curriculum】

【カリキュラムとは】

 カリキュラム=「教育課程。学校教育で、教育内容を学習段階に応じて系統的に配列したもの」(weblio辞書)とありますが、カリキュラムとは単なる「授業の順番」ではなく、内容、系統性、方法、目標、評価を体系化した「学びの設計図」のことです。

 「カリキュラム」という言葉、ラテン語の、ローマの戦陣で馬に牽かれる二輪戦車(chariot)が語源だといわれています。そこから転じて広場の競争路を意味するようになりました。つまり実は「レーシングコース」といった感じの言葉です。第二次世界大戦後に、アメリカから日本に入ってきた概念です。

 この言葉が教育の世界で使われ始めたのは十六世紀で、オランダやスコットランドの大学で使われた記録が残っています。ここでは複数年の全課程に関連したものであり、その大学で学んだといえるためには、どの教科をどの順序でやるべきかを示したものでした。

 今では、このように長期間にわたる計画の事ではなく、もっと短期間で、特定の授業に関する教育計画を指す人もいますが、教育関連法令、たとえば「大学設置基準」(昭和31年文部省令第28号)の第19条(教育課程の編成方針)には「教育課程の編成に当たつては(現文ママ)、大学は、学部等の専攻に係る専門の学芸を教授するとともに、幅広く深い教養及び総合的な判断力を培い、豊かな人間性を育成するよう適切に配慮しなければならない。」と定められており、これによるとカリキュラムの目的は「大学」の在学中だけではなく、もっと大きな時間を対象にしたもの(生涯学習なども含む)ということになります。

【カリキュラムとシラバス】

 カリキュラムは、選挙の時に政党などが掲げるマニフェスト(manifesto)のように事前に明示されるものですから、大学や高校などで配布される科目ごとの授業の概要が書かれた文書である「シラバス」と混同されがちです。シラバスとは授業計画だけでなく講座の方針や教員の連絡方法、受講上の注意なども含まれる「特定の講義の授業計画」の事です。例えが少し強引ですが、家電製品の取り扱い説明書に近い概念になります。今では世界の大学のシラバスを比較するwebサイトまで存在していますので、興味のある方は調べてみてください。因みに、そのサイトによると世界の大学で最も多く使われている教材は「The Elements of Style」という英文法の本だそうです。

【変化するカリキュラムの概念】

 近年、このカリキュラムという言葉の意味も変わってきています。名古屋大学の安彦忠彦教授によると「なんらかの教育機関において計画的ないし非計画的な学習活動を通じて学習者に身につけるよう求め、ないし学習者が身につけた教育内容」と定義されています。つまり、塾での学習や、友達の勉強方法やテレビを見て、「へぇ~」と思ったこともカリキュラムに含まれるというものです。授業や学習の計画といったイメージからは離れますが、受け取る側(つまり子ども)の立場から考えて、こういう考え方が主流になりつつあります。こうなってくると事前に文書化することが難しくなるわけですが、逆に文書化できないが、身についてしまうものもカリキュラムに含まれることになります。つまり、学校でいえば、学校文化や生徒文化、校則や伝統・校風。個別指導学院フリーステップをはじめとする学習塾でも、教室のルールや自習コーナーの使い方など、教える計画が無いのに子どもの身についてしまうものも含むというものです。このような顕在化(明文化)していないカリキュラムの事を「潜在的カリキュラム」といいます。例えば時間厳守の文化や協調・集団行動、上下関係や権威構造など、社会生活において有効なルールも含まれ、その定着は、その後の学習や様々な場面で有用であるという研究もあります。

【学習者とカリキュラム】

 カリキュラムが意味を持つのは、学習者(子ども)がどう受け取り、どのように変化したか、ということです。つまり学習者(子ども)側もそのカリキュラムを生かし切るために気をつけるべき点があるということです。

注意点をいくつかの観点からまとめてみました。

・文部科学省「学習指導要領」の視点
 単元の到達目標を確認、「何ができるようになるか」を言語化する。評価基準を確認する。

・心理学者 ジェローム・ブルーナーの視点
 前学年内容を振り返り、「なぜこの順序なのか」を考える。基礎を確認し「わかったつもり」で放置しない。

・心理学者 ジャン・ピアジェの視点
 学習にあたって、「レディネス(学習準備性)」を整える。レディネスにはその学習内容を理解するために必要な基礎事項だけでなく、必要な教材・教具の準備、睡眠・体調管理も含まれる。

・「潜在的カリキュラム」の視点
 学習の場面における、注意点やルールを理解し、利用する。但し、集団規範を批判的に考え、自分の価値観を形成する事にも留意する。

・主体的学習の視点
 自分で問いを立て、学習後、授業の再構成を試みる。またカリキュラムの社会的背景を考え、なぜこの内容が必要なのかを考察する。

 これらが自然に実践できている中学生、高校生は極めて稀だと思われますが、保護者の声掛けなどによって意識できる部分はあると思います。学校で行われている授業や行事、探究活動などの学習活動、クラブや委員会などの課外活動の意義を、改めて話し合ってみるのも良いのではないでしょうか。

 

(参考文献)
安彦忠彦 カリキュラム研究入門 新版 勁草書房 1999
J.S. ブルーナ 教育の過程 岩波書店 1963
Carroll、 J.B., A model of school learning: Teachers College Record.64 1963
教育技術研究会編 『教育の方法と技術』 ぎょうせい 1993
藤山正彦 授業ルーチン維持に及ぼす教師の働き 教育工学関連学協会連合全国大会講演論文集 2000
松下佳代 大学カリキュラム論 京都大学高等教育研究開発推進センター(編)
『大学教育学』 培風館 2003
日本教育工学会編 『教育工学事典』実教出版 2000
ジャン・ピアジェ 子どもの活動と教育の役割 三和書籍2005
寺﨑昌男 『大学教育の創造 歴史・システム・カリキュラム』東信堂 1999

 

<文/開成教育グループ 入試情報室 藤山正彦>