2020/11/09

藤山正彦のぷち教育学【集中/分散学習 Massed Learning/Distributed Learning】

スポーツの話ですが、「インターバルトレーニング」というのをご存知でしょうか。不完全回復を挟みながら運動(中強度〜高強度)を繰り返すトレーニング方法なのですが、主に長距離走のトレーニング法だそうです。急走(全力疾走)と緩走を繰り返し、その間の休憩時間は息が落ち着くまで軽く歩き続けるというトレーニングで、心肺機能や筋力の強化に非常に効果的なのだそうです。この話を中学の体育の授業で聞いて面白いと思った私は、昼休みを利用して数か月間友人と自主的に実際にやってみたところ、何か方法を間違えたらしく、長距離走のタイムはあまり変わりませんでしたが、短距離走のタイムは大きく縮めることができたという思い出があります。

同じように勉強もインターバルトレーニングのような、集中と休憩をうまくサンドイッチすると学習効果が高くなります。自動車の運転に関して、2時間以上連続して運転していると次第に疲労感がたまり、判断力が落ちるという研究結果があります(プロドライバーが運転するF1レースも制限時間が2時間です)が、同じように勉強も長時間続けていると、効果・能率は下がるというわけです。

「集中学習」と「分散学習」

「集中学習」というのは一定時間休憩を入れずに集中して学習すること、「分散学習」というのは逆に休憩を入れながら課題を区切って学習することをいいます。子どもが長時間ひたむきに学習に取り組んでいる姿も素晴らしいのですが、一定の時間の中で課題をいくつかに区切って学習する分散学習のほうが有効であることが知られています。特に意味的関連性の低い学習課題(一問一答形式の問題集での暗記など)や、難しい課題(問題)に取り組む場合では分散学習が効果を発揮することがわかっています。

しかし、分散学習が有利といっても、間隔を空けすぎる(休憩時間が長すぎる)と先の内容を忘れてしまって効果が低下してしまいますし、一つの時間を短くしすぎると、関連性のある内容を掘り下げて扱う事が出来なくなります。

小学生は「分散学習」、高校生は「集中学習」が有利?

一般的な小中学生の集中力は40分から60分程度ですので、小中学生の皆さんは1時間集中しての暗記や問題演習を行い、その後関連ある軽い作業(漢字の練習や、英単語を単語カードへの書き写し、ノートをまとめるなど)を15分程度行い、また1時間集中する・・・、というパターンを1日に数セットできれば効果的です。因みに休憩時間にスマホやテレビを見るなど全く勉強と関係ない刺激を入れてしまうと、効果は下がりますので気を付けましょう。

ところでこの集中力を維持できる時間はトレーニングや意識によっても変わります。お勉強は長時間無理だが、ゲームなど好きな事だったら2時間でも3時間でも続けられるという人は、実は長時間集中力を維持するという事ができるようになった人(つまり持久力が鍛えられた人)ですので、勉強にも応用できるはずです。「自分育成ゲーム」だと思って勉強に取り組んでみましょう。

一方、高校生以上の年齢や高学力群では、集中学習の方が有利になる場合もあります。確かに大学入試の込み入った問題は1問解くだけでも1時間以上かかりますので、分散学習では無理になるわけです。

一夜漬けのテスト勉強は定着しない?

ところで、一夜漬けでテスト勉強した内容はあまり定着しないような気がしませんか?実は次のような理研(理化学研究所)で行われた動物実験があります。

マウスの眼球の運動学習に着目した実験です。種を問わず動物には、動くモノを無意識に目で追うという習性があり、練習を繰り返すとモノを追う眼の動きが次第に大きくなっていきます。この特性を利用し、マウスに4.5 秒で1 往復するチェック模様のボードを合計1時間見せる実験を行いました。そのときのボードを追う眼球の運動量を測定し、運動学習の効果を調べたのです。具体的にはボードを①1 時間集中的に見せる、②15分間 4 回見せる(休憩間隔30 分)、③15分間 4 回見せる(休憩間隔1 時間)、④15分間 4 回見せる(休憩間隔24 時間)、⑤7.5 分間8 回見せる(休憩間隔24 時間)、という風に異なった5つのパターンでの刺激を与え、学習効果を比較しました。

いずれのパターンでも、学習終了直後は同程度運動学習を記憶していました。しかし、学習終了24 時間後に調べたところ、①の集中学習を受けたマウスの記憶は半分くらいに減少したのに対し、②~⑤の分散学習を受けたマウスは、いずれもほぼ100%記憶していることが分かりました。もちろんあくまでも動物実験ですので人の学習にその結果を応用するわけにはいかないのですが、短時間にまとめて知識を詰め込んだ方が忘れやすいような気がしませんか?

「分散学習」のすすめ

実は他の脳科学の研究で、短期記憶と長期記憶では脳に情報を記録するメカニズムが違い、異なった神経細胞に情報が送られることがわかっています。また長期記憶に関連した、とあるたんぱく質の存在も確認されています。つまり、分散学習で繰り返し刺激を与えることで、記憶に必要なたんぱく質が生成されて、長期記憶の部分に書き込まれていく、というわけです。一夜漬けではこの部分のトレーニングになりませんので、記憶が残らないばかりか記憶力(このたんぱく質を生成する能力)も成長しないわけです。

そういえば難関大学に合格した生徒たちは、自習室に入ったら2~3時間は出てきませんでした。そして、資料コーナーで調べ物をしながらしばらく静かに休憩し、また2~3時間籠るという様子でした。自分のペースで分散学習を繰り返していたのかもしれません。いずれにせよ自分に適した学習方法を身に着けていたのは確かです。

フリーステップでは80分、ソフィアでは90分を一つの単位として、「分散学習」の形式で組み立てています。その理由は、ある程度の時間を使って関連性のある内容をまとめて説明、理解してもらいつつ、集中力を維持するという教育学的知見から得られたものなのです。

【参考文献】

水越敏行 発見学習の研究 明治図書 1975

日本教育工学会編 「教育工学事典」 実教出版(2000

永雄総一・岡本武人 「運動学習の記憶を長持ちさせるには適度な休憩が必要」理研ニュース8月号 2011

坂元昂 相関分析による授業の改造 明治図書 1972

椎名 伸之, 新倉 和美, 徳永 万喜洋 RNA結合タンパク質RNG105によるシナプス刺激依存的な局所的翻訳制御 生物物理44巻、supplement号 2004

田口敏行 et.al 長時間運転時のドライバ疲労に関する考察 自動車技術会論文集 28(1), 77-82, 1997

梅岡義貴・大山正(編) 学習心理学 誠信書房 1966

<文/開成教育グループ 入試情報室 藤山正彦>