2021/01/11

藤山正彦のぷち教育学【クラス人数と教育効果 Relation between the class number of people and the educational effect】

 コロナ禍の影響が続く20201217日、政府は40年ぶりに小学校全学年で1クラスの人数を40名から35名に引き下げると発表しました。中学校は今後引き続き検討されるとの事ですが、こちらも生徒人数を引き下げる方向での議論がなされることになると思います。クラス人数の減少によってきめ細かな指導ができる、教員の負担軽減などが期待されるといわれています。

クラス人数は少ない方が良い?

 ところで、1クラスの人数はどの程度が適正なのでしょうか。一般的には少ない方が良いとされています。1クラスの人数の少なさや、1クラスを2つ以上の小集団に分けて行う授業(「展開授業」といいます)の割合の高さを、教育の質の高さの指標として誇っている自治体や学校もあります。しかし、1学年23名の過疎地の学校が非常に高い学習効果を上げているわけでもなさそうです。1996年の先行研究では、2030人が効果的であるとされましたが(杉江修治、中京大学教養論叢、58,249-264)、アメリカテネシー州で同様の調査研究・分析を行った結果、小規模学級の方が、大規模学級よりも成績が悪い学校が3割程度あるなど(Konstantopoulos 2011Evaluation Review3571-92)逆の結果も報告されています。少人数の教育効果の高さが学問的に証明されなければ、特に公教育においてそのために多くの教員を配置して限られた予算を余計に使っているというのはけしからんということになります。そこでこのクラス人数とその教育効果を調査した人がいました。国立教育政策研究所の山森光陽研究員です。

 山森光陽「学級規模の大小による児童の過去の学力と後続の学力との関係の違い―小学校第2学年国語を対象として―」教育心理学研究 64-4 201612

 この研究は48の小学校を対象として、小学校2年生の国語の授業について、7月と12月の2回の学力検査を行い、その点数の伸びと、クラスの人数規模との相関を取ったものです。いずれも1学年2クラス以上の学校で調査していますので、1クラスの人数は20名から40名の範囲です。この研究の深いところは、「あらゆる個人差に対して最適性を持つ万能薬的な教授方法は存在しない」(並木博 1997 教育心理学の課題 培風館)という立場から、スタートラインの学力別に結果を分析したことです。

 その結果を簡単に紹介しますと・・・

①人数の少ない学校の方が成績の伸びは大きい。

②学力が低い生徒ほど、その効果は大きい可能性が高い。

1年時に少人数クラスにいた生徒は高学力層であり、2年次でもその効果を維持することができる。

という結果になりました。
②の「可能性が高い」と表記しているのは、資料が統計的に十分な件数が集まっていないということと、教師の指導方法の変化など、クラス人数以外の要素が原因として考えられるとして、科学的に結論付けることができない、と筆者が書いているという意味です。また、論文の末尾にも書かれていますが、この結果は「小学2年生の国語」に関するものであり、他の教科・科目や、学年に「当てはめることは慎重にならざるを得ない。」とされています。確かにその通りですが、逆にもっと少人数指導の方が効果の高い科目や学年があるかも知れません。ところで、私が興味を持ったのは、③1年生の時に少人数にいた生徒は高学力層、という点です。日本では2011年度から小135人を上限にするように設置基準が改訂されていますが、その決定を支持する結果となっています。特に国語は、読む・聞く・話す・書く、といった「態度」で、理解する・考える、というプロセスが判断される科目ですから、小学校入学時にその態度が身についていることが重要ではないかと思うわけです。同じ授業時間だと、人数が半分のクラスは、単純計算で一人当たり2倍の発言機会があることになりますので、先生やクラスメイトから評価や指摘がなされることも増えるでしょう。つまりその正しい「態度」を身につけるチャンスも増えると考えられます。

逆に考えると小学校1年生で正しい学習態度が身につけられないような環境に置かれた場合、2年生以降、取り返し効果の高い少人数クラスが準備されなければ、その差は広がる一方だということができます。

海外のクラス人数事情

 さて、外国の状況はどのようになっているのか、関連する資料を探してみました。

 アメリカは州によって規定が異なりますが、例えばカリフォルニア州は32名を上限としているようです。ドイツも州によって多少の差がありますが、10年生(日本の高1)までは30人と決められています。ちなみにドイツの義務教育期間は13年でしかも「就学する義務」が定められていますので、不登校の場合、本人は登校を強制され、保護者は処罰を受けることになっています。イギリスも2年生までは30名と決められています。ロシアは25人で、最も恵まれているフランスは、小学校は17~20名、中等学校は21~24名とされています。

クラス人数と教育効果_1.jpgクラス人数と教育効果_2.jpg

 少し古いのですが、中国の2009年の学級規模ごとのクラス数の資料を見つけました。中国は小学校約21万校(約270万学級)、中学校5万校(約100万学級)です。(日本は全国で小学校約2万校、中学校約1万校ですから、小学校は日本の10倍の数ですが、中学校は5倍、つまり、日本より一つの中学校の規模や通学範囲が大きいと考えられます。)日本と同じように小学校は1学級45人、将来は40人にするようにという規定があるのですが、小学校で半数以上が、中学校に至っては75%が1クラス46名以上で、66名以上の学校も、小学校で5%、中学校で17%もあります。受験競争の激しい中国では重点高校(進学校)への進学率の高い中学校に学区外からの入学生(「択外生」と呼ぶそうです)が集中する傾向にあり、簡単に人数を減らせないという事情もあるようですが、各省や自治区、直轄地単位で30人規模のクラスに分割する「小班化教育」を始めた地域もあるようですので、今後改善されていくことでしょう。

 というわけで、中国は別にして、世界的にみると日本の1クラスの人数は多く、恵まれているとはいえません。このような研究を通して、少人数制の有効性を科学的に証明し、果たして35名学級が最適なのかどうかも含めてより良い学習環境が提供できる議論をさらに深めていって欲しいとおもいます。

【参考文献】
各级各类学校、教职工和专任教师情况(2015) 中華人民共和国国家統計局 2016
教育指標の国際比較 平成25年(2013年)版 文部科学省 2014
教育统计2009 中華人民共和国教育部 2010
山森光陽「学級規模の大小による児童の過去の学力と後続の学力との関係の違い―小学校第2学年国語を対象として―」教育心理学研究 64-4 201612

<文/開成教育グループ 入試情報室 藤山正彦>