2020/07/03
首都圏中学入試問題分析【中学入試で求められる社会 春休みの学習ポイント】
前回は中学入試の国語で求められてきている「書く力」や「考える力」についてお話をしました。今回は社会について受験勉強の学習ポイントについて考えていきたいと思います。
受験生のみなさん、社会の学習は進んでいますか?中学入試科目の勉強において算数や国語がメインになりがちで、どうしても社会の勉強(特に復習)を後手にまわしている受験生も少なくないと思います。しかし、社会という科目は他科目よりも知識理解を問う要素が大きく、また地理、歴史、政治・国際関係・環境問題など、学習範囲がとても広く、着実な学習が必要な科目です。前回の国語に関するコラムで取り上げたような「書く力」や「考える力」を問う問題を社会で問う学校もありますが、今回の社会では基本事項の学習について、春休みや春期講習を間近に控え、春休み・春期講習の社会学習のあり方を中心に述べていきたいと思います。
【注】今回の原稿作成は2020年1月・2月の入試前のため、紹介する入試問題は昨年2019年のものになります。
地理分野 春期講習で総復習と弱点補強を
地理分野は中学受験社会において最初に学習をする分野です。中学受験の勉強を開始して間もない場合は別ですが、1年以上前から中学受験の勉強を進められている塾生さんにとっては歴史分野や政治分野などの学習もあり、過去に学習をされた地理分野の記憶が薄れてきているかもしれません。小学6年生の場合、模試や中学校主催のプレテストにおいて、地理分野で得点ができていない受験生を少なからず見てきています。このような傾向にある受験生や保護者の方に、面談の際に社会の学習状況についてたずねると、「習った覚えはあるけど忘れてしまった」という趣旨のお話をよく聞きます。他方、「復習をしたいけど範囲が広すぎて、どこから復習していいかわからない」という声もよく聞きます。他の社会の学習分野よりも、地理分野の学習範囲は広範囲に及びます。都道府県や県庁所在地の市、山や河川、平野などの名称や位置、農業・漁業・工業など各種産業、交通・通信・エネルギー、環境問題等々。自習では効率的な地理学習は難しいのが現実です。通常授業で既に社会を受講されている受験生はもちろんですが、通常授業では社会を受講されていない受験生も、来る春期講習では社会も受講し、地理分野の効率的な学習を進めることをお勧めします。具体的には、学力診断テストや直近で受験した模試、入試過去問などから、出来の芳しくなかった地理単元の学習からスタートし、その単元からリンクできる事項の学習へと進めていきます。
【資料①】は2019年の東京農大一高中等部の社会入試問題からの抜粋です。問2は歴史に関連した問題ですが、北海道や静岡県、山梨県に関する地理学習上の理解度を問う内容です。
■資料①:2019年度 東京農大一高中等部 社会入試問題
問1のAは石狩川、Bは富士川が正解ですが、Bの河川名が思い浮かばなかった場合や大井川や天竜川などの、静岡県内を流れる他の河川名で答えた場合、(東から順に)富士川、安倍川、大井川、天竜川と、静岡県内のどのあたりを流れている川なのかをまとめてチェックしましょう。問4の正解は(農業、畜産業、漁業を含む)食料品製造業の割合の大きいウですが、ア(正解・京都府:繊維工業〔西陣織など〕が含まれる)、イ(正解・東京都:印刷業の割合が大きい)、エ(正解・静岡県:4つのなかで最も輸送用機械〔自動車・オートバイなど〕器具製造業の割合が大きい)と正解以外の選択肢についても確認し、不正解の理由や関連する知識が答えられない場合はしっかり見直す必要があります。例えば、エの選択肢が分からなかった場合は静岡県の学習を進めるといった形になります。
歴史分野 絵やマンガでイメージをつかむ
歴史分野は、歴史に興味がある受験生とそうでない受験生とで、学習の進度や深さに大きく差があらわれやすい分野です。当然ながら、歴史に興味のある受験生のほうが歴史分野の問題で高得点をとりやすい傾向にありますが、歴史に興味のない受験生にとっては、歴史学習は人物名やできごとの名称、できごとの年号をただ暗記するものという苦痛を感じやすいイメージを持ちがちです。しかし、小学校の教科書にも掲載される人物名(例:鑑真、親鸞)やできごとの名称(例:倭寇、寛政の改革)は、漢字単独では小学校では習わないものであっても、漢字で書けることも必要です。
歴史に興味がある受験生にとっても、そうではない受験生にとっても、重要なのは時代の大きな流れや特徴やイメージをつかむことです。例えば、江戸時代についてであれば、征夷大将軍15人全員の名前を覚える必要はなく、創成期(徳川家康・家光)、元禄期(綱吉)、改革期(吉宗)、幕末期(慶喜)、それぞれの時期背景や特徴を理解しながら、政策などの事柄や関連人物の名前を覚えていくといいでしょう。
また、各時代のイメージをつかむためには、日本の歴史に関する学習マンガや中学生用の日本史図録(図説写真や図表が多く掲載されているカラー版の書籍)を活用することも有効です。中学校によっては写真や絵を用いた出題がなされるところもあります。
2019年の駒場東邦中の社会入試問題ではノルマントン号事件や日清戦争前の日本と清、ロシア、朝鮮を描いたものが出題されています。日本史図録には必ずといっていいほど掲載される風刺画です。学習マンガでも、この風刺絵をモチーフにしたマンガも描かれています。
なお、この風刺画を掲載した問題は、2019年、国学院大学久我山中、大宮開成中、麗澤中、東京純心女子中などでも出題されました。
これは歴史のみならず地理や公民についても言えることですが、視覚的にイメージがつかめていると、細かい事項の理解や記憶もスムーズにいきやすくなります。また、算数や国語などの他科目の学習からのリフレッシュとしても、歴史の関する学習マンガや図録は読みやすいと思います。
公民分野 今年の政治・経済・海外の流れに関心を持つ
憲法、政治、経済、国際情勢などに関わる公民分野については、まだ学習をしていない方もいらっしゃるかもしれません。地理分野と歴史分野に比べて学習のスタート時期は遅くなりがちになる公民分野ですが、ほとんどの中学校の社会入試問題には必ず出題されます。
公民分野はもちろんのこと、社会科全体でも時事問題がよく出題されます。
今年最大のイベントは東京オリンピックの開催でしょう。今までに日本で開催されたオリンピックは3回です【資料②】。中止となった1940年を含めると4回になりますが、それぞれの年に起こったことや地図上の場所、地理的特徴についても確認をしましょう。
■資料②
【資料③】は2019年の開智中学校(埼玉)の社会入試問題からの抜粋です。札幌、東京、長野と、オリンピック開催都市の雨温図を選ばせる問題です。正解はカです。1月の平均気温や年間の平均気温が最も低い北海道の札幌がC。Cの次に平均気温が低く、Bに比べて年間全般の降水量の少ない長野がA。残った東京がBです。
■資料③:2019年度 開智中学校(埼玉) 社会入試問題
海外では、アメリカ大統領選挙が今年11月3日に実施されます。現職のトランプ大統領は共和党。アメリカの二大政党のもうひとつである民主党からは誰が立候補をするのか。トランプ大統領が再選されるのか、新しい大統領が選ばれるのか。トランプ大統領が共和党出身、オバマ前大統領が民主党出身であること、トランプ、オバマの両氏と、トランプ大統領と対決する民主党の大統領候補者、それぞれの名前や顔写真をチェックしておきましょう。
このように時事問題に関連した現代史も出題されますので、日頃から新聞やテレビのニュースに関心を持つことが大切です。
夏休みや冬休みに比べると、入試まで時間があると感じやすい春休み・春期講習においては、中学受験生も比較的のんびりしがちになります。受験勉強を進めるにしても、算数や国語は受講をしても社会は受講されないケースも見受けられます。しかし、学校によっては社会の入試科目の配点が算数や国語と同じという場合もあります(慶應義塾普通部や女子学院中など)。また、最近の社会入試は短期間の付け焼刃的な暗記では対処できない、継続的で着実な学習が実を結ぶ作問となっている傾向にあります。入試では社会も問われるが、通常授業では社会を受講していない生徒さんの場合は特に、この春期講習という機会を活かして、社会の学習も着実に、効率良く、進めていきましょう。
<文/開成教育グループ フリーステップ修学院教室チーフ 住本正之>
【フリステWalker 第138号(2020.4月)掲載】