2020/07/07

首都圏中学入試問題分析【新小6生 2020年有名中学入試分析からみえた社会の学習法】

中学受験生のみなさん、春休みの学習は順調に進みましたか?中学受験の学習においては算数や国語に注意がいきがちになりますが、受験科目として社会も必要な場合、学習範囲の広い社会は計画的に勉強を進めることが重要になります。

今回は今年実施された有名私立中学の社会の入試問題を分析し、その特徴と中学入試の社会に関して受験予定のみなさんに少しでも役立つお話をしていきたいと思います。

ポイント①
基礎・基本が何よりも大切

■資料①

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【資料①】に記載をしたのは、今年2月に実施された開成中学校(東京)の社会入試問題の「大問2」のうち、記述問題や選択肢問題を解くうえで、理解が必要であった用語や人名を書き表したものです。飛鳥寺(飛鳥時代に蘇我氏によって建てられた日本最古の本格的仏教寺院)やてつはう(元寇の際に元側が使った火薬を爆発させる兵器)など以外の太字で示したものは、小学校の社会の教科書や塾のテキストに記載があるものです。首都圏の男子私立中学の最難関とされる開成中の入試問題も基本事項をベースとした出題となっています。社会科においても、どの国私立中学校を目指すにしても、基本事項の理解と定着が受験勉強の第一の目標となります。

中学入試社会の"基本事項"はどこまでなのか?"基本事項"がどこまで定着をしていたらいいのか?それをチェックするためには一問一答形式の問題を活用するのが有効かつ効率的です。

■資料② フリーステップ(抜粋:商学実力練成エフォート社会)

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【資料②】にあるのは、フリーステップでも使われている中学受験用テキストの一つである『小学実力練成エフォート社会』のなかにある基本問題です。一問一答形式を主に語句の記載で答えさせていますが、この基本問題が8割以上正解できるか否かが目安になります。もし「基本問題」の正解率が8割を切っている場合には、志望校に関係なく、その単元の基本事項の再学習が必要です。『小学実力練成エフォート社会』の場合、「基本問題」の前のページに単元のポイントがまとめてあります。その単元ポイントのなかに不正解であった項目の答えやヒントが書かれてありますので、そこを探して、理解をしましょう。

ポイント②
情報を分析し比較検討をする問題が増えている

ポイント①で示した通り、社会の中学入試問題は社会科の基本事項をベースにした問題が中心ですが、最近は図やグラフ、数値が示されて、それを分析し、比較検討する問題も増えています。

■資料③ 出典:東大寺学園中学校社会入試問題

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【資料③】に示したのは東大寺学園中学校(奈良)の社会入試問題からの抜粋です。①・②・③の問題。わかりますか?

①はアメリカを選ぶ問題ですが、正解はウです。アメリカ産のステーキ肉やアメリカ由来の有名ハンバーガーチェーン店からアメリカでは牛肉に消費が多いと考えてウが選べれば見事です。ウではビールの消費量も多いですが、小学生にとっては、ビールを多く消費する国としてアメリカを選ぶのは難しいと思います(他の選択肢アは中国、イはサウジアラビア、エはイタリア)。

②はサウジアラビア→中国の順番で選ばせる問題ですが、中国の方が先に選びやすいと思います。アとイのグラフの縦軸は20兆円まであり、他国に比べて貿易額の大きいアメリカと中国がアかイに入ると考えて、イでは年々貿易額(特に日本の輸入額)が増え続けていること、アはリーマンショック(2008年)後の2010年に貿易額が減少していることから、イが中国、アがアメリカとわかります。残るサウジアラビアとイタリアについては、イタリアからの輸入品が多いイメージがないのに対して(レモンなどの農作物や高級ブランドの衣服・宝飾品などが輸入されてはいますが)、サウジアラビアからの輸入品として原油があると考え、ウがサウジアラビア、エがイタリア、と考えることができます。

③は韓国を選ぶ問題です。原油が1位であるウがサウジアラビア、航空機が項目に入っているアがアメリカとなります。残るイとエですが、輸入統計を覚え忘れた場合、イの衣服に注目をしましょう。ご自身の着ている衣類のタグに「MADE IN CHINA(中国)」と「MADE IN KOREA(韓国)」のどちらが多いでしょう?「MADE IN CHINA」のほうを多く見かけると思います。イが中国で、エが韓国(正解)となります。

①は牛肉の消費量の知識だけでも解ける問題ですが、②と③は正解となる国だけの知識理解ではなく、他国に関する知識理解も思い出し、比較をしながら解く必要がある問題です。

■資料④ 出典:雙葉中学校(東京)社会入試問題

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【資料④】に示したのは雙葉中学校(東京)の社会入試問題の冒頭にあった図表です。①~⑤にあてはまる都や県を考えながら解く問題です。人口の多さから①が東京都。その次に人口の多い②と③のなかで、第二次産業(自動車関連産業)の割合の高い③が愛知県、②が埼玉県。残る④~⑥のなかで、平野が少ない⑤が和歌山県。④と⑥を比べ、庄内平野などの水田地帯が多いことから、水田率の高い④が山形県。さつまいもや養豚など、稲作以外の農作物生産が盛んな⑥が鹿児島県となります。

いずれの問題も数値やグラフを比較し、学習をした事項を思い出しながら解いていくこと、そして、その演習を積み重ねることにより慣れていくことが重要になります。問題演習を通して、複数の図表やグラフ、数値が示される問題に慣れていくこと、比較検討をするトレーニングが必要です。

ポイント③
今年や近年のできごとや用語に関心を持つ

■資料⑤

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【資料⑤】に示したのは桜蔭中学校(東京)の入試問題からの抜粋です。【1】に入る用語と【2】に入る県名、わかりますか?【2】は熊本城などが大きな被害を受けた熊本(県)です。【1】は「小回りのきく」もの、「薬剤散布」ができるもので、近年進化が進んでいる器具としてドローンが考えられます。

ここに示していない設問を含めて、今年度の桜蔭中の社会入試問題では、オリンピックやパラリンピックに関する直接的な知識(例:今年の東京の前にオリンピック・パラリンピックが開催された都市名→リオデジャネイロ)を問うものはありませんでしたが、昨年のできごとと関連させた出題はされています(例:消費税引き上げに関連して、消費税や間接税の特徴を選ばせる問題)。他の中学校では、天皇の退位や即位に関連した問題(東大寺学園中など)や昨年、ノーベル化学賞を受賞した吉野彰氏に関連した問題(同志社香里中など)が出題されています。

東京オリンピック・パラリンピック、今年実施予定のアメリカ大統領選挙については『フリステWalker』第138号に記載をしましたが、今年は中国・武漢市(湖北省)から感染が拡大をした新型コロナウイルスが日本にも大きな影響を与えました。新型コロナウイルスと関連させた問題が来年度の社会入試では出題される可能性もあります。長江(揚子江)の中流にある武漢市の場所を地図上で確認をしたり、新型コロナウイルス対策を担う日本の省庁(厚生労働省)や国際機関(WHO:世界保健機関)の名称を確認しましょう。

中学受験の学習はどうしても算数や国語に意識がいきがちで、受験科目に社会があるにも関わらず社会の勉強量が少なくなり、模試や公開テストの点数や偏差値が良くない、4科目と3科目で受験選択ができる学校の多い関西地方の受験生の場合、社会を受験勉強から外す決断をする受験生も珍しくはないのですが、算数や理科が極めて得意で、それらの科目の得点力を活かすという意味でないならば、とてももったいない決断と考えます。社会は着実に勉強量を重ねれば、その分、得点力も偏差値も上がりやすい科目です。社会の成績が振るわない場合は教室チーフに相談をして、社会の学習内容の確認と見直し、そしてプランニングを行いましょう。

<文/開成教育グループ フリーステップ修学院教室チーフ 住本正之>

【フリステWalker 第140号(2020.6月)掲載】