2023/03/06

関東関西有名中学入試分析【2000年以降の中学受験事情 変わったことは?】

 中学入試のみならず、高校入試や大学入試の合格発表も出揃う時期となりました。どの入試でも、以前は学校での合格者の受験番号掲示が行われていましたが、新型コロナウイルス感染防止や個人情報に対する考え方の変遷などから、学校での合格者発表は少なくなり、インターネットでの合格発表や合否照会が中心となっています。また、こちらも新型コロナウイルス感染防止の観点からですが、中学入試において、筆記学力試験とは別に面接を設けていた中学校(特に女子校で以前は多くありました)が、コロナ禍以降は面接を廃止、もしくは合格発表後の面接となったケースが多く見受けられます。

 このように中学受験に関する諸事項も、時代の移り変わりとともに変化があります。今回は中学受験を考えている小学生の保護者のみなさまの多くが学生であった頃、中学校や高校に対する価値観や評価基準が形成されたであろう頃として、今から23年前の2000年を目安として、2000年当時と現在とで、中学受験にまつわるどのような変化があったのかを、大きく2つのテーマで書いていきたいと思います。

変化その1 公立中高一貫校新設&公立高校の改革→私立中高の多様化・差別化 

 2000年当時、首都圏や近畿圏での中学受験生は、個々の志望校そのものに憧れやこだわりを持つ受験生とは別に、難関大学や医学部への進学を視野に入れている受験層と公立中学校や公立高校を敬遠したいという受験層の二極化をしていた実感が、当時から受験生指導をしていた私にはありました。

難関大学や医学部を目指す中学受験生の存在は、当時も現在も変わりありません。特に医学部医学科進学を前提とした中学受験生の存在は不動です。近年、東京大学に関しては(東京都立)日比谷高校や(神奈川県立)横浜翠嵐高校、京都大学に関しては(大阪府立)北野高校、天王寺高校などの公立高校からの合格者数の増加も目立っていますが、東京大学の理科Ⅲ類(医学部医学科進学課程)や京都大学の医学部医学科の合格者数は、灘高校や開成高校、桜蔭高校などの私立中高一貫校と公立高校とでは差がある状態が続いています。私立中高一貫校が医学部志望者を集めている理由ですが、数学や物理など医学部受験で基軸となる科目の学習を、入試演習を含めて効率的に進められるカリキュラムが(公立中学・高校とでカリキュラムが分断される公立高校に比べて)組みやすいこと、医学部受験生の保護者は必然的に医師が多く、私立中高一貫校の学費や受験のための塾費用など、経済的な面で私立一貫校・医学部の受験や在学を後押し可能な家庭が多いこと、などがあげられます。

 公立中学校や公立高校の敬遠からの中学受験についてですが、2000年当時やそれ以前の時期、一部地方自治体での公立高校からの大学進学状況の不振や公立高校の入試制度、中学校の内申点制度等に閉塞感を感じた家庭が少なからず存在し、高校受験や内申点に縛られないという理由から中高一貫校(中学受験)を選ぶ家庭が増えました。

 かつて東京都や京都府、兵庫県(一部の地域)等の都道府県の公立高校入試では、受験生が入学希望をする高校に単願受験をするのではなく、複数の高校からなる高校群を受験して、進学先の高校は居住地などから自動的に割り振りをされる入試制度(自治体によって学校群制度や総合選抜、合同選抜などと呼ばれます)が実施されていました。この入試制度は一部の進学校の入試激化の緩和や公立高校全体の質の均等化を意図して全国的に導入されましたが、導入の結果、一部の高校で大学進学実績の躍進があったものの、日比谷高校や(京都府立)洛北高校など、かつてはその都道府県でトップ校とされていた公立高校で軒並み、東京大学や京都大学などの難関大学の合格者数が激減し、学力優秀層の多くが国立や私立の中高一貫校に流れるきっかけとなりました。大学進学面のみならず、受験生の希望する部活動や課外活動のない高校への割り振りも生じ、希望する公立高校を選べない学校群制度や総合選抜制度は2000年までにはほとんどの地方自治体で廃止をされましたが、公立高校の不人気は2000年当初は、国立や私立の中高一貫校が多く存在する東京や京都などではまだ尾を引いていました。

 一方、入試制度の変遷に関係なく、公立高校入試では中学校の成績(内申点)が点数化され、入試当日の学力試験の点数と合算されて合否が判定されるのが一般的です。公立高校入試における内申点の点数比率や中学1年・2年・3年の各学年の内申点の比重は各都道府県や高校によって異なりますが、中学1年次・2年次の内申点の比率が3年次と同じ自治体もあり、中学入学当初は部活動や課外活動、習い事などに力を入れたいと思っていても、高校入試のことを考えて内申点(中学校のテストの点数)を上げるために、公立中学校に入ったら早期から塾に通う必要があるのではないか、と考える保護者もいらっしゃります。それならば、学費はかかっても、子ども自身がやりたいことを伸び伸びとできる、高校入試に縛られることのない中高一貫校(中学受験)を選ぶ、という家庭が増えてきました。

 中学受験生の多様化に更に拍車をかけたのが、公立の中高一貫校の新設・増設と各都道府県での公立高校の変革です。先に述べた公立高校の不人気や停滞モードを打開するために、1990年代後半以降、各都道府県の多くで公立高校や公立高校入試の「改革」が行われるようになりました。生徒の居住地から進学可能な高校の範囲を決めていた学区制が廃止もしくは緩和されたり、進学校とされる高校を中心に、入試問題(の一部または全部)を学校独自作成の問題が導入されたりしました。その公立高校改革の一環として実施されたのが一部の公立高校の中高一貫校化です。

 国立の中高一貫校は国立の教育大学や教育学部の附属校として、東京、大阪、京都などに以前から存在していましたが、都道府県立や市立など、地方自治体が運営する公立中高一貫校が創設されたのは(第二次世界大戦直後の学校制度変革の時期を除き)1990年代からであり、東京都や京都府など中学受験が比較的盛んな地域で公立中高一貫校が創設されたのは2004年以降になります。

地方では既存の公立高校とは別個に全く新しい公立中高一貫校を新設したケースもありますが、首都圏や近畿圏の場合、ほとんどが既存の公立高校をベースにした中高一貫校となりました。既存の公立高校を中学生徒募集のみの中等教育学校に改変したり、公立高校(高校入試)を残したうえで、その中学校に附属の中学校を併設したりしています。

※公立中高一貫校についての詳細はフリステWALKERの2021年11月掲載「関東関西有名中学入試分析 【地域別 公立中高一貫校の特色とは?】」もご参照ください。

 公立高校の変革や公立中高一貫校の新設は各地域の私立中高一貫校や中学入試にも少なからず影響を与えました。かつては学区トップ校であっても、公立高校からの東大や京大などの難関大学合格は非現実的、仮にできたとしても浪人(予備校通い)が当然、というバイアスもあった東京の都立高校や京都などの都市部の公立高校からの難関大学合格者も急増し、難関大学進学を視野に入れた場合、今までの私立中高一貫校一辺倒から、公立中高一貫校、もしくは公立(国立)中学校から公立進学校の高校受験と、多様な選択肢を考えることが可能になりました。このような流れもあり、私立中高一貫校の側も、大学進学指導面のみならず、課外活動や部活動の充実、国際化教育・IT教育など、公立(進学校や中高一貫校)との差別化を打ち出す学校が増えてきました。

例えば、西大和学園中高(奈良県河合町)は難関大学志向の場合、京都大学を目指すケースが多い近畿圏の進学校のなかで、京都大学よりも東京大学への合格者数が多くなり、中学入試でも高校入試でも、本校入試以外に東京、名古屋、福岡など、全国7会場とシンガポールで入試を実施しています(2023年度)。2000年には西大和学園高校から東大には21名、京大には46名合格をしていますが、2022年、同校からは東大には79名、京大には40名と、東大のほうが、合格者数が多くなっています。関西にある進学校のなかで灘中高(神戸市東灘区)と並び、東大志向・東京志向であることをアピールして、京大志向や地元志向の強い他校との差別化の狙いもあると思います。

桐蔭学園(横浜市青葉区)は、かつては高校一学年1,600名強のマンモス校で、スケールメリットを活かした希望進路別のクラス・コース設定もあり、東大に100名強、早稲田大学や慶應義塾大学にも一般入試で全国トップの合格者数を輩出した時期もありました(2000年:東大58名、早稲田大333名、慶應義塾大333名 2022年:東大5名、早稲田大99名、慶応義塾大99名 いずれも桐蔭学園高校および同中等教育学校合計数)。

近年は中学入試を経ての入学者は6年一貫教育の中等教育学校に集約し、男女別学制から男女共学制に移行、特定大学の(一般入試)合格実績よりは多様な進路、総合型選抜や学校推薦型選抜など、一般入試以外も含めた大学入試へのきめ細かい対応などに力点を置いた学校運営となっています。

変化その2 共学校の増加 特に大学系列校の男子校→共学化、カトリック校の女子校→共学化が進む

 公立中学校は原則男女共学です。埼玉県など、北関東の男女別学の進学校での一部例外もありますが、公立高校もほとんどが男女共学校です。それに対して、私立中学校や私立高校では、もちろん共学校も多くありますが、男子校・女子校も数多く存在しています。2000年以降に新設された中高一貫校のほとんどは男女共学校ですが、戦前からの歴史のある学校、キリスト教主義の学校を中心に男子校・女子校の男女別学校が多く存在します。そのような男子校・女子校のなかにも、2000年以降、共学化した中高一貫校が多くあります。

 男子校から共学校への移行については、2000年以降、特に首都圏や近畿圏の有名大学の附属校・系列校の男子校の男女共学化が目立ちました。【資料1】では、早稲田大およびMARCH(明治大・青山学院大・立教大・中央大・法政大)、関関同立(関西大・関西学院大・同志社大・立命館大)の大学附属校や大学系列校のなかで、元々男子校であった中学校が男女共学化をスタートした年をまとめました。

【資料1】首都圏・近畿圏の大学附属・大学系列の男子中学校の共学化を開始した年

 早稲田実業中(早稲田大)2002年  明治大明治中(明治大)2008年

 法政大学中(法政大)2007年     法政大第二中(法政大)2016年

 関西大第一中(関西大)1995年    関西大北陽中(関西大)2010年中学新設

 関西学院中(関西学院大)2012年   同志社香里中(同志社大)2002年

 立命館中(立命館大)1988年

早稲田大、明治大、法政大、関西大は旧来から男子学生が多く(平成になるまでは女子学生は少数)、大学の校風も硬派、「バンカラ」(黒色詰め襟の学生服を着た男子学生のイメージ)とされてきました。これらの4大学の附属校・系列校の高校・中学校も男子校が多く、早稲田大の附属校・系列校の高校・中学校は2000年当時、全て男子校でした(早稲田大高等学院〔高校〕、早稲田大本庄高等学院〔高校〕、早稲田中・高、早稲田実業中・高)。関西学院大と同志社大はともにキリスト教主義の大学です。関西学院大は旧来から女子学生の比率も高く、大学受験を目指す女子高校生にも人気の高い大学ですが、男性宣教師が創設した男子教育機関を由来とした学校であり、中学部(中学校)・高等部(高校)とも男子校を維持してきました。同志社大の系列中学校は同志社中と同志社国際中は男女共学、同志社女子中は名前通りの女子校、同志社香里中は同志社系列になる前の前身校が男子校であったため、同志社系列となってからも男子校を維持しました。

大学系列の男子校が共学化に動いた理由ですが、母体となる大学の女子学生や女子受験生の増加と大学のイメージ刷新とブランドイメージの向上をあげることができます。

他方、2000年以降は女子校から男女共学校に移行した学校も少なくありません。男子校の共学化の場合は大学系列校が目立ちましたが、女子校の共学化の場合は女子大学を含む大学の附属校・系列校というよりは、学校改革や学校刷新の一環として、校名変更も含めての男女共学校の「新設」とするケースが多く見受けられます。

2000年より前になりますが、1996年、渋谷女子中学校(東京都渋谷区)が男女共学化したうえで渋谷教育学園渋谷中学校(高校)と校名を変更しました。渋谷教育学園は千葉市でも渋谷教育学園幕張中学校(男女共学 当時は渋谷教育学園幕張高校附属中学校)を運営し、同校が大学進学指導面でも実績を重ねるようになり、そのノウハウを渋谷中学校にも活かし、進学校化とグローバル教育化を進めました。渋谷教育学園渋谷中の躍進の影響もあってか、2000年以降、例えば、2007年に順心女子学園中(東京都港区)から広尾学園中に、2009年に東横学園中(東京都世田谷区)から東京都市大等々力中に、それぞれ校名変更をしたうえで女子校から男子共学化がなされました(注:都市大等々力中の共学化開始は2010年)。近年ではキリスト教主義、特にカトリック主義の女子校の男女共学化や校名変更も目立ちます(【資料2】参照)。

【資料2】2000年以降の首都圏・近畿圏におけるカトリック主義の女子校の共学化開始の年

 東星学園中(東京都清瀬市)2008年※校名変更なし

 賢明学院中(大阪府堺市)2010年※校名変更なし

 聖母被昇天学院中(大阪府箕面市)2017年→アサンプション国際中

 大阪聖母女学院中(大阪府寝屋川市)2017年→香里ヌヴェール学院中

 聖ヨゼフ学園中(横浜市鶴見区)2020年※校名変更なし

 星美学園中(東京都北区)2022年→サレジアン国際学園中

 大阪信愛学院中(大阪市城東区)2022年※2018年大阪信愛女子学院中から校名変更済

 目黒星美学園中(東京都世田谷区)2023年→サレジアン国際学園世田谷中

 

 カトリック主義の女子校で共学化が相次ぐ背景ですが、「お嬢様」学校のイメージからの刷新やグローバル化教育の強みのアピールによる生徒募集の拡大にあるのでは、と考えます。

【資料2】にあげた学校はいずれも、小学校を併設しています。小学校から併設している女子校(中学・高校)は総じて「お嬢様」な学校というイメージが強く持たれがちになります。確かに、小学校からの内部進学の生徒には会社経営者や医師など、経済的に恵まれた家庭の子女が少なくない傾向にあります。もちろん、経済的に恵まれた生徒が多いことと学校の善し悪しとは全く関係はありませんが、その学校に「お嬢様」が多いというイメージがあると、中学からの入学を考えている児童や家庭からすると「入学してなじめないのではないか?」とか「金銭感覚が異なる子が多いのではないか?」とか「入学後、いろいろとお金がかかるのではないか?」など、先入観や心配事を持ってしまう可能性があります。私も受験指導者として、カトリック主義の女子校の生徒や教員先生など、関係者の方とも多く接してきましたが、慎ましく、謙虚な性格の方が多い印象です。

またカトリックに限らず、キリスト教主義の学校には創立当初から英語などの外国語教育に力を入れ、外国語教育の実績やノウハウが豊富なところが多いです。カトリック主義の学校在学の場合、高校での成績基準や英検などの語学資格の取得状況次第で、上智大学のカトリック高等学校対象特別入試を受験することが可能となります(ちなみに、プロテスタント系の学校の場合は同志社大学や青山学院大学、国際基督教大学などのプロテスタント主義の大学の指定校推薦枠がある傾向にあります)。これらの強みを活かしアピールをするため、共学化においては「国際」を校名につけ加える学校が目立つ傾向にあります。

今回は2000年からの中学受験事情の変化について述べてきました。私立中学においては、今回述べたような男女共学化や校名変更など、変化の著しい学校が多くみられます。他方、あまり変化のみられない学校、伝統や校風を守り続けている学校もあります。表面的には変化が見られない学校でも、カリキュラムや教育環境、教師陣など、内面では実は大きく変革をしている学校もあります。いずれの学校も、保護者のみなさまが学生だった頃とは有形無形で変わっている中学校が大半です。お子さまの中学受験にあたっては、先入観にとらわれることなく、気になる学校は積極的に資料請求をしたり、説明会や参加可能な学校行事に足を運んでみてください。

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<文/開成教育グループ フリーステップ修学院教室チーフ 住本正之>