2025/08/25
関東関西有名中学入試分析【マトリックスからわかる 中学受験&中高一貫校のメリットについて】その②
今回は、中学受験を検討されているご家庭に向けて、中学校進学に向けた検討材料として、中学受験をして中高一貫校に進学するメリットについて述べていきたいと思います。
前回、「その①」では総論をお伝えいたしましたので、今回の「その②」ではより具体的なメリットについてご説明します。まだ「その①」をご覧になっていない方はぜひ、「その①」もあわせてご覧ください。
■マトリックスを用いて メリットの具体的説明
中学受験・中高一貫校の3つのメリットを大学受験進学校、内部進学制度のある学校、独自活動尊重校の3つの学校類型からマトリックスを用いて、それぞれの具体的メリットを表しました。
【資料】中高一貫校(中学受験)のメリットと学校類型によるマトリックス
高校受験なし |
(学習)カリキュラム |
価値観の同質性 |
|
大学受験進学校 |
学習事項の重複を最小限に 高校受験のための内申点対策は必要なし |
高校範囲早期終了 数学・理社科目の充実が可能 |
高い目標設定での切磋琢磨 |
内部進学制度のある学校 |
中学でも特色ある授業・行事 行事や部活の充実 |
中学・高校それぞれ創意工夫 |
大学への愛校心の高さ 偏差値以外の視野 |
独自活動尊重校 |
14歳・15歳の時期の充実 |
メイン活動との両立しやすい |
個性、特技、活動への尊重 個性豊かなコミュニティ |
■大学受験進学校におけるメリット
【高校受験なし】
〇学習事項の重複を最小限にできる
中学校と高校でのカリキュラム上の重複を最小限にすることで、履修内容を効率的に整理し、その分できた授業時間数を(高校課程で)大学入試に向けた問題演習や探究型授業などに充分に充てることができます。特に英語(英文法)や数学において有効となっています。中高一貫校の進学校においては中3段階で高校の学習範囲を授業で扱うことは珍しくありません。
〇高校受験のための内申点対策は必要なし
高校受験では、中学校での履修教科9教科の成績は内申点として点数化されることが多く、その内申点は高校入試、特に公立高校入試では重要な合否判断材料となります。美術、技術・家庭、音楽、体育のいわゆる実技教科も内申点の対象となりますし、中1・中2と中3との内申点配点が同じ都道府県もあります。その場合、中1や中2の段階から内申点に留意をした学習や定期試験結果としておかないと、大学合格実績の高い公立進学校(高校)への進学は困難となります。中高一貫校の場合、もっとも学業不振を理由として併設高校に進学が出来ないケースもありますが、それは余程の学業不振の場合であり、大多数の生徒は併設高校に進学できます。
【(学習)カリキュラム】
〇高校履修範囲を早期に終了
高校受験なし、それによる学習事項の重複を最小限にできることと相まって、難関国立大学や医学部の志望者が多い中高一貫の進学校の多くでは、高2の段階で、高3までの各教科の学習範囲の授業が終了し、高3の段階では生徒各自の志望に合わせた大学入試に向けた演習授業が組まれます。特に理系志望の数学や物理、化学、生物の理科系科目においては、高校入試を経て入学をする高校は、進学校であっても、通常期の授業時間数を多くしたり、夏休みなどの長期休暇に講習などを行ったとしても、医学部を含めた理系受験に必要な数学Ⅲまでの数学範囲や理科系科目2科目の高校範囲の学修終了はいくら早くても高3の秋となることが多く、中高一貫校の学修面での優位が否めません。
〇高校の数学・理社系科目が充実
東大や京大などの難関国立大学の理系学部及び国公立・私立を問わず医学部医学科を受験する場合、入試において理科系の科目は2科目の受験が原則必要となります。すなわち、高2までに理科系科目のうち2科目の授業履修を終え、高3の段階では理科系科目2科目の大学入試に向けた演習授業が(学校での学習ベースで、塾や予備校を使わずに受験をする場合は)必要です。他方、文系学部受験においては、東京大学のみ文科(文系)入試では地歴科目において2科目受験が必要です。難関国立大や医学部への合格実績の高い中高一貫の進学校の多くでは数学や理科系各科目の授業が充実しています。また、東大志望者の多い中高一貫校では、文系コースを選択した場合、日本史、世界史、地理の地歴科目が2科目履修できるカリキュラムを組んでいます。
【価値観の同質性】
〇高い目標設定で切磋琢磨しやすい
自分のみならず同級生のほとんどが難関国立大学や医学部を志望する進学校であれば、高い目標志望を公言しても同級生や教諭から引かれることなく、むしろ勉強面で切磋琢磨できる環境にあると言えます。他方、仮に中学入学当初は大学や将来の職業・キャリアが明確に決まっていない場合でも、同級生の雰囲気や姿勢に引っ張られて勉強を進め、結果として東大・京大などの難関大学に現役合格できた、という成功談も、このような中高一貫校では珍しいことではありません。
■内部進学制度のある学校におけるメリット
【高校受験なし】
〇中学校でも特色ある授業やイベントが可能
併設大学への内部進学を前提とする高校の多くでは、併設大学の授業への参加(大学卒業単位に認定される場合もあり)、大学教員による学部紹介、卒業生によるキャリアに関する授業、大学での学びの方法(論文・レポートの作成、文献資料の探索方法など)等、大学での学びや学部・キャリア選択に直結をした授業やイベントがなされています。併設大学のある中学校においても、大学や卒業生のリソースを活かした授業やイベントが実施されています。
例えば、早稲田大学高等学院中学部(東京都練馬区)では中学段階から英語以外の外国語(フランス語、ドイツ語、中国語、ロシア語)の選択履修が可能であったり、慶應義塾普通部(横浜市港北区)では、同校卒業生による講演や卒業生の就業先での授業(目路はるか教室)を3年間毎年、生徒は受講することが可能です。
〇行事や部活動の充実
高校受験がある公立中学校の場合、高校入試を控えた中3生は夏休み以降、部活動や行事が制約されるのが一般的です。他方、高校受験のない中高一貫校の場合、中3でも部活動を早期に引退する必要はなく、修学旅行などの行事も受験に成約されることなく実施しているのがほとんどです。特に内部進学制度のある学校の場合、部活動においては大学体育会の部からの指導を定期的に受けることができたり、修学旅行、研修旅行、合宿など、中学生活の最大の行事として、中3の秋から冬にかけて大規模な旅行を伴う行事を実施している大学系列中学校が多い傾向にあります。
【(学習)カリキュラム面】
〇中学・高校で創意工夫
併設大学への内部進学を前提とした中学校や高校の場合、高校からの外部生の募集(高校入試)も実施をするところが大半です。そのため、高校入試のない完全中高一貫校でよくあるような、中学段階での高校範囲の履修などのいわゆる先取り授業が行われる中学校は少なく、むしろ中学課程の徹底、高校受験を経て高校から入学をする生徒と同じクラスで授業を受けることが支障とならない学力養成に留意をしているところがほとんどです。他方、将来大学での学修や研究活動の根幹となる文章力(作文力・論文力・読解力)やメディア・リテラシー能力の養成に、大学受験前提の進学校以上に力を注いでいる中学校も少なくはありません。他方、高校においては、内部進学者・高校入試を経た外部進学者が高1から同じクラスに混ざって、高校課程の学力養成と個々の希望進路(学部)に応じた選択授業や大学講義の履修を進めていきます。
【価値観の同質性】
〇大学に対する愛校心の高さ
内部進学制度のある学校に通う生徒の保護者や親族は当該大学の卒業生(OB・OG)が多い傾向にあります。その大学を誇りに思い、愛校心が高い卒業生が、わが子やわが孫などの近親の子に進学を勧める、もしくは主体的になって受験を経た方も少なくないはずです。大学系列の中学校によっては野球やラグビーなど、併設大学のスポーツの試合に学年単位(主に中学1年生)で応援観戦に出かけるところもあります。学校にとっても、愛校心のある生徒に中学、ひいては大学の中核を担う学生や卒業生を育成したいという思いがあります。
〇学歴や偏差値以外の視野・価値観の養成
難関国立大学志向の強い進学校の場合、私立大学は早稲田・慶應などの難関私立大学であっても、難関国立大学の併願校、もしくは学力的に届かない場合の進学先という見方をする在校生や卒業生も存在します。しかし、内部進学制度のある学校の場合、難関国立大学への劣等感を思う在校生や卒業生はほとんどいないはずです。そのような価値観の学生は私立大学の内部進学制度のある学校をそもそも受験しないはずです。大学受験の模試の入試合格可能性の偏差値をベースにした大学の序列化は現実には存在しますが、内部進学制度のある学校の在学生はそのような偏差値や学歴ベースの視野や価値観にとらわれることなく、学業や部活動、習い事など、各自の興味や関心に邁進ができる環境にあります。もっとも、併設大学の知名度やブランド力に奢るOB・OGも一部には存在をするかもしれませんが、内部進学制度のある学校はバランスのとれた視野や価値観が育ちやすい環境にあるとも言えるでしょう。
■独自活動尊重校におけるメリット
【高校受験なし】
〇14歳・15歳の時期の活動が充実しやすい
今まで中学受験・中高一貫校のメリットについて述べてきた大学受験進学校も内部進学制度のある学校も、大学進学を前提、大学進学を目的としている学校です。しかし、小学生のみなさんのなかには、大学進学もしくは大学卒業後を見据えての中学校選びではなく、中学生・高校生までの年齢時期にこそ打ち込みたいことがある前提での中学校選びを考えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。音楽(楽器演奏)、将棋、囲碁、クラシックバレエ、フィギュアスケート、歌舞伎などの古典芸能などもその一例だと思います。その場合、各自が打ち込みたい活動メインで、教科科目の学業はその活動と両立できること、支障とならないこと、そして、そもそも高校入試がないこと、高校受験の勉強や活動に充てる時間がないことがポイントになると思います。
【(学習)カリキュラム】
〇打ち込む(メイン)活動との両立がしやすい
一般的な中学生であれば高校受験となる時期に、高校受験のない中高一貫校に通い、自分が打ち込みたい活動に打ち込む。しかし、どの中高一貫校(中学校)でも英語や数学などの教科科目の授業はあります。難関大学志向の大学進学校のように授業の進度が速く、宿題や予習・復習のための自己学習時間を多く確保する必要がある学校だと、自分が打ち込みたい活動との両立は困難です。むしろ、教科科目の授業進度は公立中学校と同水準たったり、授業時間内で学習した内容の定着がはかれるカリキュラムが組まれていたり、自分が打ち込む活動のために学校を欠席することがあっての、その補習やフォロー体制が整っていることが、このようなケースでの中学校選びのポイントとなります。
【価値観の同質性】
〇個性や特技、自分が打ち込む活動への尊重
スポーツや習い事、芸能など、自分が打ち込みたい活動への理解や尊重がある中学校を選ぶこと、選べること。中学受験に対する、独自カラー志向の受験生やそのご家庭のメリットであり、重要なポイントでもあります。例えば、中学生の時期でも芸能活動を希望する場合、そのような活動を禁止・制限をする私立中学校が多いのですが、学校によっては芸能活動を許可するケースもあります。その場合、そのような生徒への特別扱いはなく、教科科目の学修に支障をきたした場合は留年や退学の可能性もあるとし活動をする本人と家庭の自己責任を求める学校もあれば、授業やテストの欠席の場合も含めて、補習やレポート、個別指導など、手厚いフォローを行う学校もあると聞きます。
〇個性豊かなコミュニティ
生徒個々の活動、ひいては個性を尊重する学校は、在校生やその家庭、教職員、卒業生など、学校に関わる人々(コミュニティ)に個性的な方が多い傾向になります。前掲の大学進学校や内部進学制度のある学校のコミュニティの場合、政財界や実業界などのいわゆる"パワーエリート"色の強いコミュニティとなるケースが多いのですが、独自カラーの強い個性的な学校の場合、芸術、芸能、スポーツ、クリエーターなど、個性を活かした仕事をしている、もしくはその関係者のコミュニティとなる傾向があります。
今回は中学受験、中高一貫校のメリットについて、学校選択についての根幹のメリット、そして3つのメリットについて学校タイプ別に述べてきました。
中高一貫校に求めることはお子さま本人やご家庭によって多種多様です。他方、中高一貫の中学校も校風、カリキュラム、学校のコミュニティなど多少多様です。既に志望校を決めている人もいれば、まだ志望校が決まっていない人、そもそも中学受験をするかしないかを決めていない人もいるかと思います。いずれにしても、気になる学校、いいなぁと思える学校があれば、学校の資料やホームページを見て、オープンスクールや文化祭などに見学に行きましょう。たくさんの学校を見ても構いません。たくさんの学校を見るなかで、体感をするなかで、中学生活で自分が何をやりたいのか、またどのような将来を望むのかが具体的に見えてくると思います。
▼「マトリックスからわかる 中学受験&中高一貫校のメリットについて その①」をまだご覧になっていない方はこちら
https://freestep-walker.com/blog/cat3/post_495.html
<文/開成教育グループ フリーステップ修学院教室チーフ 住本正之>