2021/09/27
Duranの留学記【第10話】
Hello there! Duran's here with you.
Scene 10 "What I want to do is ・・・".
やっと、学校初日が終わった。その夜の皆での夕食である。家族全員がテーブルに着くと、Daddy(お父さん)が厳かにGrace(お祈り)を始めた。全員手を身体の前で組む。
"God is good. God is great. We thank for our food. Amen."
(神は善。神は偉大だ。食事がとれることを感謝します。アーメン)
毎回これをやるのだ。う~ん、映画みたいだ。もっとも、「祈りの言葉」を言うのはいつもDaddyというわけではない。たまに、言う人は変わる。DaddyかMommy(お母さん)が指名するのだ。実際、ボクも後に指名されることとなる。
"How was your first day, Duran?"
(今日はどうだった、デュラン?)
と、ファミリーたちが聞いてくれた。ボクは筆舌に尽くしがたい一日を、面白おかしくみんなに話して聞かせ...、られるハズもなく、ただ、
"It's not so bad. School's fine. Study's fine. Student's fine. Listen, I got a friend called Jeff, and girls so far."
(そんなに悪くは無かったよ。学校はきれいだし、勉強もまあイケたし、生徒たちも悪くなかったよ。聞いてよ、友達ができてね、ジェフっていうんだ。あと数人の女友達もね)
とだけ伝えた。シンディ(長女)は笑顔で聞いている。ティム(長男)とエマ(次女)はボクなどいるのか?といった顔で、ひたすら夕食を食べている。牧場でバイトしているティム(彼は将来、牧場経営をしたいらしい)はともかく、エマは肥満体を目指しているらしい。いつも恐ろしく食う。ケビンとジェイソンは早く食べて、早く遊びたい顔だ。この家庭は食事中、TVを観ない。
"Ohooo! Isn't it amazing Duran, making girl friends from the first day?"
(ホホー!やるじゃないかデュラン、初日からガールフレンドかい?)
と、Daddy。いつものように声がでかい。シンディがチラリとDaddyを見た。すかさずMommyが後を引き取った。
"You said Jeff. Is that Jeff Mayer?"(mommy)
(ジェフって言ったわね。それってジェフ・マイヤー?)
"Yes, do you know him?" (Duran)
(そう、知ってるの?)
"Yes, he lives right next to us."(mommy)
(そうね。彼はすぐ近くに住んでいるのよ)
"Probably the closest classmate of yours."
(あなたの一番近いクラスメイトだわね)
(なるほど。ジェフはご近所さんなワケだ)
スクールバスは彼の家の前を通るが、彼はマイ・カー通学らしい。ちなみにペンシルバニア州は、16歳から普通自動車の運転免許が取れる。アメリカではほとんどの州で16歳から免許が取れるのだ。車社会なのがわかる。が、ボクは留学ビザなので、残念ながら免許は取れない。こんな田舎で自分の足が無いのは実に不便である。留学生はおとなしく勉強してなさい、ということなのか。
食後ボクは、日課の反芻(はんすう)を開始した。今日一日を振り返り、出来事やわからなかった会話などを整理するのである。「美少女隊」のこと、「教師たち」のこと、「カリキュラム」のこと...。
(今日は本当に長かった...)
さて、実はボクには日本にいた頃から「アメリカに来たらこれをやろう」と決めていたことが何個かあった。その一つが「卒業」なのである。ボクは日本では高校2年生である。したがって、こちらでは4年制高校3年生に編入された。が、これでは当然、「修了証書」は貰えても「卒業証書」は貰えない。これが面白くないのだ。
ボクは国費留学生である。留学試験は毎年行われ、各都道府県男女一名ずつ(高校の多い都道府県からは+1名)、全国で100名ほどが選抜される。合格者はほぼ一年の研修を経て、渡米する。この試験の申し込みは5月。4月に高校に入学して、すぐにそんな試験を受ける奇特な生徒は少ない。つまり、ボクの同期の留学生たちは、そのほとんどが高校3年生なのである。研修の間に仲間になった友人たちは、みんな「卒業証書」を貰って帰国する。ボクだけ「修了証書」...。しかし、アメリカには「飛び級」というシステムがある。学年を飛ばして進級できるのである。すごいのになると、9歳で大学進学、というのもあったそうだ。
(いいね、いいね、それいいね~)
この「飛び級」を狙うのだ。システムはよく分からんが、なんとかなるのではないか。実は、日本で「飛び級」を調べてもよくは分からなかったのだ。インターネットの無い時代である。州のシステムにもよるだろうし、そもそもボクがペンシルバニア州に決まったのは渡米してからだった(ある事情から、アメリカ・東海岸に行くこと以外決まっていなかったのだ)。
今日、初めて教科書をざっと見た。英語さえしゃべれれば、楽勝だ!―と思う。まあ、その英語が問題なのだが...。学力の他に必要なものは?どんな試験がある?タイム・リミットは?直接、教師やカウンセラーに聞けばいいのだろうけど、笑われるのがオチだ。それに、こういったものは、まずは情報戦である。
(シンディに聞こう!)
ボクは風呂上がりのシンディの部屋を訪ね、ドアの前から声をかけた。
"Hi, this is Duran. I have something to talk with you." (Duran)
(あのさ、デュランだけど。話したいことがあるんだ)
"Oh, Duran. Me too. Ten minutes. In the kitchen. Okay?"(Cindy)
(あら、デュラン。私もよ。十分後、キッチンでね。OK?)
"Okay."(Duran)
(オッケー)
いつものテキパキした返事である。そういえば、彼女もアカデミック・コース(大学進学コース)である。後に知ることになるのだが、アカデミック・コースは思ったより少ない。ボクが所属することになる野球部は、70人中ボクを含めて2人だけだった。ボクは先に一階に降りて彼女を待った。
"So what do you want to talk about?" (Cindy)
(話って、なに?)
"It's unusual for you to talk to me"
(あなたから私に話って、珍しいわ)
"You talk first. Maybe I'll talk longer." (Duran)
(先に話してよ。たぶんボクの方が長くなると思うから)
"Perhaps you want to talk about those girls?
(君の話は例の美少女隊のことなんだろ?)
"Yes. How did you find out I was the one who did those things?"(Cindy)
(そうよ。どうして、私が助け舟を出したと気づいたの?)
"Well, Diana was in the room even though she had no business." (Duran)
(う~ん、ダイアナは用事もないのにカウンセラーの部屋にいた)
"It's unusual. That's the first."
(不自然だ。これが第1)
"Nicole was alone in front of the school archive."
(ニコールは学内書庫の前でたった一人で立っていた)
"She has a lot of friend to talk with. Unusual. That's the second."
(彼女は多くの友人がいたのに、不自然だ。これが第2)
"Specially, Avril came into the different homeroom"
(なんといっても、アヴリルは自分のと違うホームルームに入ってきた)
"It's too unnatural. That's the third."
(不自然すぎるだろ?これが第3)
"Oh, you're very cleaver. You kept up with the situation." (Cindy)
(あなた、頭いいわ。状況を把握している)
"I have other words, they all said I didn't have time." (Duran)
(まだある。彼女たちはみんな『ボクには時間が無い』と言った)
"That means they knew I was an exchange student."
(ということは彼女たち、ボクが留学生だと知っていたんだ)
"No one else knew it at all."
(他の生徒は誰も知らなかったのにね)
"And..."
(そして...)
"And?" (Cindy)
(そして?)
"They're all too charming. Extremely unnatural!" (Duran)
(みんな、可愛すぎた。不自然極まりない!)
"Oh, that girl in the purchasing department."
(あっ、あの購買部の女の子)
"That girl was charming too, is that your work?
(あの子も可愛かったけど君の指金(さしがね)かい?)
シンディは目を輝かせた。身を乗り出して言った。
"You're amazing, incredible, it's perfect!" (Cindy)
(あなたって素晴らしいわ、驚嘆だわ、満点よ)
"I love you!"
(好き、よ)
(おい、なんだよ。いきなりかよ。いや、ボク、心の準備が...)
"Stop it, you'll be shy." (Duran)
(よせよ。照れるぜ)
"As I thought, the Japanese are intelligent." (Cindy)
(やっぱり、日本人って聡明だわ)
"What? Japanese? You've just said 'You'. Don't you mean me?" (Duran)
(なにっ?日本人?《あなた》って、《ボク》のことじゃあ?)
"What're you talking about? You know my favorite is Japanese." (Cindy)
(何言ってるのよ。私が日本人びいきなの、知ってるでしょ)
"Let's us talk about Japanese. I have a lot of questions. The 1st is..."
(一緒に日本人の話をしましょうよ。たくさん質問があるの。まず...)
なるほど、たしかに「You」は単数も複数も「You」なワケで...、シンディの「You」は複数だったワケで...、ボクの勘違いだったワケで...。
(だから英語なんか、大嫌いなんじゃ~!!)
―と叫ぶわけにもいかん。ボクは悲しみの中でこう言った。
"Can you wait for the questions for a while, please?"(Duran)
(ちょっとだけその質問待ってくれないかい)
"I think it's my turn to talk to you"
(先にボクの話を片づけたいんだ)
ボクは「飛び級」の話を一生懸命に語った。シンディは、さらに目を輝かした。この娘は知的な話をすると、すぐこういう目をする。
"That's good! Let me help you. I'll try to research it from now." (Cindy)
(それ、いいわね。手伝わせてよ。すぐに調べてみるわ)
シンディはそう言うと、チョットだけ考えた。
"But I've never heard of skipping grades in this city." (Cindy)
(でも私、《飛び級なんて》この町で聞いたことがないわ)
"I'm sure it's difficult."
(きっと難しいわよ)
"I know it."(Duran)
(知ってるよ)
とは言ったもののどんな関門が待ち構えているやら。自信なんか、無い。しかし、留学なんかこうでなききゃ面白みがない。
ところで、さっきのシンディ...、
(ちょっと、ドキドキしたなぁ...)
See you next time.
<文/開成教育グループ 個別指導統括部フリステウォーカー講師編集部:藤本憲一(Duran)>