2022/01/24

意外と知らない?【三権分立とはなにか(後編)】

 今回の記事では前回に引き続き、「三権分立」について理解を深めていきます。

 今回は、三権分立という制度が現代の暮らしにどのように関わっているのかを中心にお伝えします。

「三権分立とはなにか(前編)」はこちら

1.政治体制

 まず確認したいのは、三権分立がどのように現代の政治体制に関わっているのかということです。今回はアメリカと日本の政治体制にどのように反映されているのかをまとめます。

 日本では法律を定める立法権を国会が、法律に従い政策を実行する行政権を内閣が、法律違反を罰したりする司法権を裁判所が担っています。これらの機関はお互いに独立して権力が偏ることを防いでいます。

 以前の記事で国会は「国権(国家の権力)の最高機関」であるとお伝えしました。内閣や裁判所が法律に従って権力を行使するのであれば、そもそもの法律を作ることができる国会が国家権力の中でも一番上であるといえるからです。また、国会は唯一の国民から選出された議員によって構成される機関であることも民主主義国家としてとても重要な理由となります。

 国会は衆議院と参議院の2つで構成されており、内閣総理大臣の任命および不信任案の提出権を持っています。これによって内閣が国民の意思に反する政策を実行しようとした場合にそれを止めようとすることができます。また、裁判所に対しては裁判官に対する弾劾裁判を行うことができます。これは裁判官としてふさわしくない行為をしたり、職務上の義務に違反した裁判官について、裁判官を辞めさせるかを判断する裁判のことです。

 内閣は国会から指名された内閣総理大臣と、内閣総理大臣から任命された複数の国務大臣によって構成されます。閣議決定された内容を国務大臣がそれぞれ担当する省庁に指示を出して政策を実行します。

 内閣では最高裁判所の長官の指名や裁判官の任命権を持っており、また国会に対しては衆議院の解散権を行使することができます。

 裁判所は最高裁判所とその他の下級裁判所によって構成されており、法律違反を罰したり法律が憲法に違反していないかを判断する役割を担っています。これによって理不尽な法律が制定されて国民の生命及び生活が脅かされることのないようにする重要な役割です。特に最高裁判所は「憲法の番人」として違憲審査を行う権利をもっています。

 この他にも国会議員の不逮捕特権や裁判官の独立などの制度によって各機関に所属している人が他の機関に圧力をかけられないように保護されています。

 このようにして、日本ではそれぞれの機関が独立しお互いに権力の濫用が起こりうると判断した場合に介入できる権限をもたせることで相互に監視しあい、国民の権利を守るための仕組みがされています。

 それに対してアメリカでは、立法権を連邦議会が担い、行政権を大統領が担っています。そして、司法権は日本と同様に裁判所が担っている、とても厳格な三権分立制が採用されています。アメリカの政治体制の特徴として、行政権をもつ大統領は立法権をもつ連邦議会には出席することも法案の提出をすることもできないようにされているという点があります。一方で議会側にも大統領の罷免権がなく、立法権と行政権が完全に分離されています。この点では、同じく行政権を担う立場である内閣総理大臣が立法権を持つ国会から選出されている日本とは大きく異なっているといえます。

2.三権分立はどのように生活に関わっているのか

 では、私たちの生活に三権分立はどのように影響をもたらしているのでしょうか。普段の生活の中で、あまり体感することはないかもしれません。そのため、「もしも三権分立がなかったら」という仮定をしてみましょう。

 さて、三権分立という制度がなかった場合、イギリスやフランス同様に権力が国王などの個人あるいは一団体に集中していることが想定できます。

現代の日本のように議会を通じて政策や法律を決めようとした場合、その決定には調査や会議が何度も開かれて結論が出るまでに時間がかかってしまうことがあります。その点では、個人や一つの機関が意志決定をする方が素早いでしょう。何か緊急事態が起きた際の対応の早さという意味では、こちらにメリットもあるといえるでしょう。

 しかし、法律や政策など、国民の生活を制限することのできるものを決定するには本来とても慎重である必要があります。もしも権力が一部に偏っていて、その権力を担っている人あるいは団体が自分の利益を追求しようとした場合に、自分にとって障害となる人を取り除くことができてしまうからです。実際にイギリス革命のときには、国王にとって都合の良いイギリス国教会の信者以外を政治から追い出そうとする法律が制定されました。自分にとって都合が悪いからという理由だけで法律を作ることができた場合、反論したり注意したりすることが出来る人は逮捕をおそれて少なくなってしまいます。

また、司法権さえもその個人か団体が掌握している場合には、より大変なことになります。自分にとって都合の良い法律を作り、それに反対する人を逮捕し、重い判決を与えることができるのです。国家権力という大きな権力が濫用された場合、それに対抗できるような力を蓄えることはとても難しく、一度そのような事態に陥ったら状況を改善することは至難の業といえます。

 このように、三権分立という制度がなく、権力が偏って配分されている場合にはその権力を自分のために使ってしまう人が出てきて、多くの国民がその被害を受けることがあります。前回の記事でも出てきたように、これまでの世界の歴史上でも、多くの人の人生を左右できるような強大な権力を巡り様々な問題が発生してきました。

 普段はあまり意識することがないかもしれませんが、三権分立というものは人々の自由と権利を護るために生まれたものなのです。

 今回の記事では日本が採用している三権分立という制度を中心に取り上げました。もちろん、世界には三権分立制度を採用していない国もあります。世界の200国近くある全ての国々の政治体制の理想図が一緒というわけにはいかないのです。そして、それぞれの国は、これまでの自国の歴史や他の国々の事例などを検討して様々な政治体制を整えています。ぜひ皆さんも自分の興味を持った国の政治体制や歴史に触れてみてください。

<文/開成教育グループ 個別指導部フリステウォーカー講師編集部:高山萌々子>