2021/12/06

関東 受験・進学情報だより【東京都立高校・推薦入試】

皆さんこんにちは。

今回は東京都立高校の推薦入試について、仕組みと対策を解説していきたいと思います。

まずは基本的な部分です。

都立高校の入試方式は大きく分けて2つあります。

"推薦""一般"です。今回は"推薦"の内容とどのように対策したら良いかについてお話していきます。

以前、東京都の高校入試制度について触れた回で入試全体の概要は書かせてもらいましたので、そちらも是非ご覧ください。

推薦入試

正式には"推薦に基づく選抜"と呼ばれます。(一般入試の方は"学力検査に基づく選抜"といいます)

ごく一部(島嶼部)の高校を除いて実施されている入試方式になります。

令和4年度入試の日程は次の通りになっています。

高校_推薦入試_日程.jpg

令和4年度東京都立高等学校入学者選抜の日程について https://www.kyoiku.metro.tokyo.lg.jp/admission/high_school/exam/release20210527_07.html


一般入試と違って、学力検査(テストと聞いて真っ先に思い浮かべるタイプの5教科のペーパーテスト)はなく、以下の内容を総合的に判断して選抜が行われます。

  • 調査書
  • 集団討論
  • 個人面接
  • 作文/小論文 ※ 学校によりどちらか
  • 実技検査 ※ 文化・スポーツ等特別推薦等で実施

"推薦に基づく選抜"もまた、2種類に分かれます。

"一般推薦""文化・スポーツ等特別推薦"です。

"文化・スポーツ等特別推薦"の方は、実施している学校も募集人数も少なく、実技検査を課されるという、「ある分野において突出した人材を対象としている」という色が濃い入試方式になっています。運動部でいうと、「都大会上位以上の成績を目指している」ような部活を有する学校が、その競技において優秀な能力を持った生徒に来て欲しいという意図で募集している推薦の方式だと考えて良いと思います。

一方の"一般推薦"は、学校の求める生徒像への合致など人物重視の入試方式です。推薦という名前から想像して出願のために高いハードルがあるかと思ってしまう方もいますが、実際は基本的に誰でも出願することができます。(学校長推薦の元に出願することになるので、100%ではありませんが、よほどのことがない限り受検の意思を示せば推薦してもらえます)

各高校は、普通科なら全募集生徒数の20%以内、コース制などなら30%の生徒を推薦の枠で募集することになります。

たとえば、ある都立高校の令和4年度の募集生徒数が全部で200名だったとすると、40~60名が推薦入試で、残りの160~140名が一般入試で合格するということです。

高校_推薦入試_募集枠.jpg
この20~30%の枠で合格するのは果たして簡単なのか難しいのかということを考えるために、"応募倍率"を見てみましょう。視覚化するとこんな感じです。

この"応募倍率"は、何人の募集に対し、何人の応募があったかを示す数値で、倍率が高いほど難しいと考えることができます。

10名の募集に対し、20名の応募があれば倍率は2.0倍。2人に1人が合格。
10名の募集に対し10名の応募なら倍率は1.0倍。全員合格。
10名の募集に対し9名しか応募がなかったら倍率は0.9倍。これも全員合格。
倍率が1以下であれば、募集人数以下の応募人数だった=全員合格できたということです。

さて、令和3年度の"推薦に基づく選抜"全体の応募倍率はというと3.21でした。3人に1人以下の合格率です。

一方、"学力検査に基づく選抜"の応募倍率は1.35(全日制)でした。

比べると、なかなかに狭き門であることが分かりますね。

因みに、東京都の高校入試制度の回で触れたとおり、都立高校への出願は推薦・一般を問わず「単願」になります。「合格したら必ず入学します」という約束のもとに出願する方式だということです。だから、推薦で合格した高校をおさえとしてキープして、第一志望を一般で受けるといったことはできません。ほとんどの生徒は推薦と一般で同じ高校を受けます

推薦入試の対策

ではここからは、上で挙げた推薦入試で評価されるポイントについてその対策方法も一緒にお伝えしていきます。

 

  • 調査書

通知表の点数=内申点のことです。

調査書点を何点として扱うかは学校ごとに決めることができますが、最高で全体の50%までと決まっています。

推薦入試の行われる1月より前、12月には中学校から出される"仮内申"がこれにあたります。この仮内申は3年生の12学期の成績で決まります。

つまり、3年生の2学期(前後期制の学校であれば後期中間)までの定期テストや提出物、授業態度などで決まるということです。

中学3年生であれば、出願をする頃にはもう泣いても笑っても動かせない数値になりますが、12年生であればここから頑張って成績を上げていけばそれだけ合格可能性が高まるということです。

なお、総合点の半分近くがこの調査書点で決まる関係上、推薦入試の際の内申点の目安が存在します(一般入試用の数値と異なります)。12年生には目指すべき通知表の数値になっていくと思いますので、教室でチーフに「今の内申だとどういった高校が適正か」「行きたい高校のためにはどのくらいの内申が必要か」聞いてみてくださいね。

 

  • 集団討論

一点先に注意ですが、COVID-19(新型コロナウィルス)の影響で、昨年度に引き続き2022年度の集団討論も実施されないことが決まっています

2023年度以降どうなるかは現時点では未定ですので、参考程度に読んでおいてください。

集団討論とは、15分から30分という時間の中で一つのテーマに対し56人程度のグループが話し合いをし(基本的には)グループとしての結論を出す、というものです。

どのような観点で評価するのかは各学校で異なりますが、基本的には「自分の考えを明確に述べることができる」、「他者と協力して一つのことに取り組むことができる」といった受検者のコミュニケーション能力、思考力・判断力・表現力、積極性及び協調性、バランス感覚や傾聴力などを見られることになります。

論理的に考え、それが伝わるような表現をするという点では次に紹介する作文・小論文と根は同じです。

各高校は、毎年傾向の似たテーマを使用することが多かったので、対策として東京都教育委員会のサイトに載っている過去の集団討論のテーマを見て、このテーマなら自分はどう考えるか、それをどう伝えるか、その伝え方で他の参加者に誤解を生じないか、他の参加者からはどのような意見が出そうかといったことをノートなどにまとめていきましょう。たくさんのイメージトレーニングを積んだうえで、本番同様の人数で実際の人数で練習をすることでイメージとのずれを修正していきましょう。対策をしていない生徒と大きな差が出るはずです。

 

  • 個人面接

生徒一人に対しての面接を行います。

面接の時間は学校によりけりですが、10分程度のところが多いです。

お辞儀やノックの仕方なども全く影響がないとは言えませんが、それよりも何よりも面接での受け答えが大事です。

集団討論と一部重複するコミュニケーション能力、思考力・判断力・表現力、積極性などを評価されます。

学校側は基本的にこの日初めて受検生(あなた)と会います。調査書でしか分からなかったあなたのことを、面接を通じて「よくわかった」「是非、うちの学校に来て欲しい」と思われるようになってもらわなければなりません。

そのためには「質問の意図」を汲む練習が必要です。

短い時間で繰り出される質問には無駄なものは無いと考えましょう。

たとえば、よく「今日はどのようにこちらまで来ましたか」といった質問が出ます。

さて、どう答えましょう。

よく考えてみてください。

「電車で来た」生徒と「徒歩で来た」生徒の間に優劣が発生するのでしょうか。普通そんなことはありえませんね。そうすると、この質問は純粋に交通手段について聞きたいわけではなさそうです。

この質問はおそらく、「初対面の相手に、必要な情報を簡潔に伝える力があるか」であるとか「簡単な質問で、緊張の度合いを見ている」であるとかそういった意図があると推測できます。

「高校入試 面接 質問」といった検索をすると、よく聞かれる質問が出てきますので、そういった質問に対し「自分ならどう答えるか」をまずノートに書きだしてみましょう。そして「この答えで相手は自分のことをより理解することができるか」という観点で考えて、足りなかった部分をメモしていきましょう。面接での受け答えもまた、思考して表現する練習を重ねることで大きな差がつく部分です。

 

  • 作文

作文の試験時間は50分のところがほとんどです。

500600字の作文を1題が多いですが、100字以下のお題を34題といったところもあります。

作文では一般的に、物事を理解する力、思考力・判断力・表現力、文章構成力などを評価されます。

作文のテーマは多岐に渡りますが、「高校生としてどう過ごしたいか」「環境問題」「国際化社会」などよく問われるテーマはある程度絞れますので、東京都教育委員会のサイトに載っている過去の作文のテーマを見ながら、様々なテーマに対し自分はこう考えるという大枠を持っておいて、それを表現できる練習をしていきましょう。

ここで、作文が苦手という生徒にちょっとアドバイスです。

①聞かれていることを明らかにしましょう

作文のテーマが何なのか捉え損ねると、絶対に良い評価は得られません。

まずはごく簡単に、問題は何を求めているのかを問題文から読み取ります。作文の場合は「書け」か「述べよ」ですね。何を「書け」なのかを見ていくと、「意義を書け」だったり「どうなりたいのかを書け」だったりが分かってきます。(私はこれを"最単純化"と呼んでいます)

「考えを書け」なら「何についての」考えを求められているのかを読み取ります。

「具体例を一つ挙げ」「考えを書け」のように指示は2つあることもあります。

国語の読解や数学の文章題などと明確に関係してくる部分になりますので、普段から「聞かれていることを明らかにする」癖はつけておきましょう。

②型を持ちましょう

たとえば、「○○についてのあなたの考えを書きなさい」をいうテーマだった場合、まずは「あなたの考え=結論」を先に書いてしまいます。

その後に、「読んでいる人に、どのようにその結論が出てきたのかわかる内容=説得力」を書きましょう。

「結論」→「説得力」という型です。

起承転結や序破急など、文章の書き方は色々ありますが、基本的に相手に何かを分かってもらいたい文章の作りはこの結論と説得力の組み合わせです。

練習の際には、「この作文の結論は何かな」「この結論を分かってもらうための説得力はあるかな」といった視点で考えながら推敲しましょう。

 

  • 小論文

難度の高い学校では作文ではなく小論文を課すところも多いのですが、作文と小論文の違いは分かりますか?

作文は「できごと」と「どう思ったか」が書かれていれば大丈夫(もちろんレベルの高いものはそれだけではいけませんが)ですが、小論文は自分の主張を根拠と共に述べていき読んだ相手が「書き手はどのように考えてこの主張をしているか」を明確に理解できるものでなければなりません。

都立高校の推薦入試の小論文の出題の仕方としては、

①「表やグラフ・文章といった資料を提示し、それについて分かることを書かせ、その後に考えを書かせる」

というものや

②「与えられたテーマについて論ぜよ」

というシンプルなものがあります。

①の方がガイドがあって書きやすいと感じる方も多いのではないでしょうか。ただ、①の形式でのテーマの場合、過去問を見に行っても資料部分が明かされていないことも多いです。そうなると練習が難しくなりますので①が良いか②が良いかというのは一長一短と言えます。

過去問での練習が難しい面はありますが、資料の読み取りは都立一般の社会の問題などにも通じる要素が大きいので、そちらでたくさん「表やグラフから読み取れる事実を言語化する」練習を積むと対策になるはずです。

フリステウォーカー内の記事で小論文について解説しているものもあるので、是非こちらも読んでみてくださいね。(大学受験向けですが、本質は全く同じです)

【大学受験】小論文の勉強方法とは?

 

ここまで色々書いてきましたが、推薦対策には「自分の答えに自分で良し悪しを判断できない」「練習する環境が整わない」という難しさが壁として立ちはだかります。

経験と知識のある大人のサポートは必須かと思いますのでそういう時は塾を上手に使ってくださいね。

<文/開成教育グループ 教育技術研究所 小川真史>