2024/10/07
関東関西有名中学入試分析【中学受験の基本のキホンの質問にお答えいたします】
10月になりました。中学受験に向けて受験勉強を進めている小学生のみなさん、学習は順調に進んでいますか?特に小6生のみなさんの多くは第一志望校や受験を検討している併願校が定まり、各校の過去問題を解きながら学習を進めているかと思います。一方で夏休みが明けてから、急遽中学受験に向けた情報収集や対策を開始された方もいらっしゃるかもしれません。
今回は以前に掲載しご好評をいただいた「中学受験Q&A」シリースの2024年版として、今までに私やフリステWalker編集部に対して送られた中学受験に関する質問や相談の中から、中学受験の基本事項や意外に知られていない事項について、Q&A方式で述べていきたいと思います。
なお、今回記載をする内容は中学受験における一般的な傾向及び例外事項に関するものです。読者の皆様が個々に関心を持っている、受験を検討している中学校については、必ず当該校の入試要項や学校案内等の記載を熟読し、それでもご不明な点については中学校に直接お問い合わせのうえご確認ください。
質問その1:
小学6年生の保護者です。子ども本人が急遽、私立中学校に進学をしたいと言い出しました。進学したい中学校は比較的(模試)偏差値が高いとされる中学校です。今まで塾に通うなどの受験勉強を進めていませんでしたが、10月の今からでも入試までに間に合うものでしょうか?
まずは過去問による合格可能性の確認を。その結果によっては別の入試方式や次善校の確認も。
このコラムのシリースでは中学受験生における夏休み期間の学習の重要性を毎年述べてきました。すなわち、夏休み期間に中学受験に向けた学習を進めていない状態で急遽中学受験対策に入る、受験勉強を開始するにあたっては、率直に申し上げて(夏休み以前から受験勉強を進めていた受験生と比べると)ハンデがある、受験可能な中学校の選択肢は限られてくる、と言わざるを得ません。しかし、中学受験が不可能ということはなく、状況や今後の戦略・戦術によっては志望校合格や志望校ではなくても希望する進路の方向性に合った私立中学校への進学の可能性を高めることできます。
ほとんどの私立中学校では国語・算数・理科・社会などの教科学力試験を中心に据えた入学者選抜を実施しています。教科学力試験(一般入試)での合格を目指す場合、まず必要なのが今現在のご自身の状況で入試問題において合格水準の得点ができているか否かの確認と(合格水準には達していない場合)合格に必要な得点との差がどれだけあるか、を確認することです。
今まで中学受験に向けた学習を意識的に進めていなくても、今現在、志望校の入試過去問題を入試本番と同じ制限時間内に解いて、合格最低点を超える合計得点、もしくは合格最低点には届かなくても、合格最低点まであとわずかの水準の合計得点を取ることができているのであれば、残り3~4ヶ月の受験勉強であっても志望校合格の可能性は十分にあります。その場合、志望校の過去問の傾向を把握し、保護者の方が学習内容を精選することが可能であれば家庭学習中心の受験勉強も可能ですが、もしもそれが難しい場合は中学受験指導対応の集団塾、個別指導塾、家庭教師などの専門家の指導のもと受験勉強を進めるのが現実的であると考えます。
他方、志望校の入試過去問題を解いても、合格最低点に届かず、しかもその差が大きい(具体的な目安としては、入試合計点(満点)の15%以上の得点差がある)場合は、残り3~4ヶ月の受験勉強で合格最低点をクリアするのは、私の受験指導経験則上もかなり難しいと言わざるを得ません。それでも志望校受験にこだわりたい場合、もちろん、学力試験に基づく一般入試を受けるか否かは受験生ご本人や保護者の判断となりますが、もしも志望校において一般入試以外の入試方法があれば、その入試方式が受験生本人の個性に合うものであるかを確認されるといいでしょう。首都圏でも近畿圏でも、一部の中学校にはなりますが、小学校の成績(いわゆる通知表の評点)や課外活動での受賞歴・参加歴、英検・漢検・算検・珠算検定などの取得級・段、中学受験向けの模試(学力テスト会)の成績などを踏まえた、自己推薦型、もしくは小学校長や第三者による推薦型の入試が行われているケースがあります。
また、学力試験中心の入試に挑む場合、第一志望校受験がうまく行かなかったとしても、お住まいの地域から通うことが原則となる公立中学校への進学以外の進路を希望される場合、一般入試、推薦入試を問わず、他の私立中学校においても、受験生本人や保護者の考え方と教育方針やカリキュラム、大学進学などの進路指導方針が合致できるところであれば、今からの対策での合格の可能性を模索することも重要になります。
例えば、首都圏在住の小6男子で、早稲田大学もしくは慶應義塾大学の附属校・系列校を志望校群とする場合(男子の場合、早稲田大系列・慶應義塾大系列ともに3校ずつ、男子対象の中学入試を実施している附属校・系列校の中学校が東京都内や神奈川県内にあります。ちなみに女子の場合は、早稲田大系列は1校、慶應義塾大系列は2校、受験可能な中学校があります)、併願校としては早慶両大学に次ぐとされる大学群の附属校や系列校も考えることができますし、(最終的な大学進学先として)どうしても早慶にこだわりたい場合、両大学の系列の高校に男子校が多く、女子よりも受験機会や選択肢が多いこともあり、高校受験希望者に対して柔軟な姿勢を持つ中学校や、中高一貫校であっても中学校と高校の相互独立性や完結性が強い中学校の併願入試を検討することも必要となるでしょう。
質問その2:
高校受験の場合は中学校の通知表の成績(内申点)が重要になりますが、中学受験の場合も通知表(あゆみ)の成績は重要になりますか?模試に比べると通知表の点数が思うようにとれず、気になっています。
一般入試:大多数の私立中は筆記試験の点数のみで合否判定
推薦型入試:重視される場合が多い
公立高校の入試においては、受験生である中学生の出身中学校が作成をする通知表(調査書)の教科の関する内申点(9教科 5~1段階評価)が入試当日の学力試験の点数と合算されて合否が決まるのが、どの都道府県でも原則となっています。そのこともあって、中学入試においても小学校の通知表の点数が影響する、小学校での課題や宿題、提出物、授業態度などにも気を配る必要があると考える保護者の方もいらっしゃいます。
中学校の入試における小学校の通知表(「あゆみ」という名称の小学校が多いかと思います)の扱いは中学校や入試方式によってそれぞれで異なりますので、受験を検討している中学校が示す最新年度の入試要項や入試案内の記載を確認していただきたいのですが、一般論で話せば、私立中学校の(学力試験に基づく)一般入試においては、小学校の通知表の内容や評点は「参考資料」としては扱われますが、点数化される例は少なく、入試の合否は学力試験の合計点だけで判定されるケースがほとんどです。学力試験とは別に面接を実施する中学校もありますが、「口頭試問」として具体的な配点が示されている場合や学力試験合格者に対して、別日程で独立して面接試験を実施する場合などを除くと、面接も基本的には参考程度の扱いになります(面接試験については「質問その3」にて詳しく言及いたします)。
ちなみに、国立大学附属の中学校・中等教育学校や公立の中高一貫校の中学校・中等教育学校においては、筆記試験(検査)の配点のほうが高いながらも、小学校の通知表の評点を点数化して、筆記試験などの点数と合わせて、合否判定の判断材料の一部としているところが多くなります。例えば、筑波大学附属中学校(東京都文京区)の入試においては、学力検査(国語・算数各50点満点 社会・理科各25点満点)計150点満点に加えて、小学6年生12月末における各教科の点数を、国語、算数、理科、社会に加えて、体育や図画工作などの実技科目や外国語(英語)科目も含めて、最高点42点満点で換算し、報告書点として学力検査の点数と合算して、調査書の記載内容も踏まえ、合否を総合的に判定するとしています。
他方、私立中学校の入試においても一般入試とは別に(質問その1でも示した)推薦型の入試や筆記学力とは異なる観点を積極的に評価する入試においては、小学校の通知表の評点が点数化されたり、選考基準のひとつとなるケースが数多くあります。
立命館守山中学校(滋賀県守山市)はその名の通り立命館大学の系列の中高一貫校ですが、学力試験に基づく一般入試とは別に「かがやき21入試」という自己推薦型も実施し、今年2024年度、同中学では、一般入試を経ての人数(77名)よりも多い83名が「かがやき21入試」を経て入学しました。「かがやき21入試」は、同入試出願前に、小学校の通知表の成績(評点)が一定水準以上であることが求められる第1要件と、小学校の成績以外の分野で学術・学芸、文化・芸術、スポーツなどの分野で顕著な実績を有することという第2要件の二つの要件をクリアしたうえで、双方の要件を点数化し、点数上位70名程度の受験生を「資格認定者」としたうえで受験を認め、最終的には作文と面接の受験を経て合否を判断する(毎年「資格認定者」のうち、作文・面接受験者は全員合格しています)入試です。第1要件は、小学5年生の3学期および小学6年生の1学期の(実技科目・外国語科目を含めた)9教科の点数が対象となります。このように、近畿圏や首都圏でも千葉県や埼玉県などの、それぞれ一部の中学校では、小学校の通知表の成績を出願要件や合否に判定基準とする入試も実施されています。
質問その3:
子どもの第一志望校では保護者同伴の面接が実施されます。面接は中学入試の合否にどれだけ影響するのでしょうか?
面接試験は減少傾向。「参考程度」とする学校が多いが、重視している学校もある
中学入試の面接試験は女子校や大学系列校を中心に、以前は多くの私立中学校の午前開始の入試のなかで実施されていました。しかし、午前中からお昼頃にかけて学力試験を実施し、その後面接試験を実施すると、最も遅い面接時間となった受験生の場合、試験終了が夕方近くになり、受験生や付き添いの保護者、面接を実施する中学校の教職員にも負担が大きいこと、午後入試を実施する中学校が増え、そのための受験生の移動や学校側の(午後入試への)準備を考慮する必要性が増えたことがあり、近年では面接試験を廃止したり、面接を実施するのを合格発表後、入学手続き以降にするなどする中学校が増えてきました。加えて、2020年の新型コロナウイルス感染症の拡大の影響もあり、面接廃止の流れは加速しています。
そもそも面接試験の実施理由は受験生本人の入学意思の有無や強さの確認、受験生のコミュニケーション能力や個性の把握にあります。現在でも面接試験を実施している中学校のほとんどが、面接試験の評価は「参考程度」であくまでも学力試験の得点で受験生の合否を決めています。しかし、面接において、受験生本人が終始無言を貫いたり、当該受験校への入学意思を否定する発言をしたり、当該受験校の名誉や尊厳に反するような、または反社会的・反人権的な発言をしたりすると、たとえ学力試験で合格水準の点数に達していても不合格とされてしまう場合があります。都市伝説的な話ですが、毎年、東京大学や医学部医学科への進学者数が多いことでも知られる都内にある女子中高一貫校の中学入試の面接において、同校を志望した理由を難関大学や特定学部への進学の通過点として同校を志望したと述べたり、同校の進学校としての社会的評価や知名度の高さを「ブランド」と見做し、その「ブランド」を得たいといった主旨の発言をした受験生に対して、同校の先生方はその受験生に対する合否判定の判断材料としていると言われています。
一般入試において面接試験は「参考程度」としている中学校が多いのですが、面接試験を学力試験日とは別日程で実施する中学校の中には、面接試験を重視していると推察される中学校もあります。慶應義塾大学の系列中学校である慶應義塾中等部(東京都港区)と慶應義塾湘南藤沢中等部(神奈川県藤沢市)です。両校とも学力試験を一次試験とし、その一次試験の合格者が面接と体育実技による二次試験を受験し、一次試験と二次試験の評価を総合的に判断して最終合格者を決定するというプロセスをとっています。ちなみに体育実技はとび箱や縄跳び、バスケットボールやサッカーボールによるドリブルなど、年によって異なるようですが、実技の上手下手以上に実技に対する真剣さや失敗しても諦めない態度や粘り強さを重視しているとされています。
両校とも面接試験は保護者同伴を原則としています。保護者同伴についてホームページの入試に関するよくある質問(Q&A)において、慶應義塾中等部は「できるかぎりご両親でご出席下さい。やむを得ない場合には、お一人でも結構です。」とし、同湘南藤沢中等部は「保護者はお一人でも結構です。そのことによる有利不利は一切ありません。」としています。両校とも受験生や在校生の保護者には慶應義塾大学出身の方が多い傾向にはありますが、もちろん、同大学や受験をする中等部のOB・OGであることと受験生の合否とは原則無関係です。ただ、慶應義塾(大学)は全国にある私学の中でも際立つ独自のスクールカラーや創立者である福澤諭吉を尊ぶ気風があります。そのような慶應義塾の校風に対する理解や憧れ、敬意が受験生本人や保護者にあるか否かが面接において確認されている、評価対象となると思われます。
まとめ
今回は中学受験に関して、今からの受験勉強スタートについて、小学校の成績について、そして面接について、私の受験指導経験上の知見を交えて述べてきました。中学入試の基本形は学力試験の得点結果に基づくことに変わりはありません。学力試験に挑む受験生のみなさんには、引き続き受験科目の学習や志望校の入試過去問の分析や研究を進めていただきたいと思います。他方、推薦型入試など、筆記学力以外の能力や実績に評価がされる入試の受験を考えているみなさんも、作文や面接、口頭試問など、それぞれの入試に必要な課題に向けた着実な学習や練習を進めてください。面接については塾の先生など、大人の方と質問のやりとりをする練習や習慣を意識して設けていきましょう。
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<文/開成教育グループ フリーステップ修学院教室チーフ 住本正之>